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【インタビュー】TVアニメ「海賊王女」オリジナルサウンドトラックがCD2枚組で発売。梶浦由記が、18世紀の海洋冒険活劇のための音楽を語る!
2021年12月07日 12:00

【インタビュー】TVアニメ「海賊王女」オリジナルサウンドトラックがCD2枚組で発売。梶浦由記が、18世紀の海洋冒険活劇のための音楽を語る!
クライマックスを迎えるTVアニメ「海賊王女」。18世紀×王女×侍×海賊という異色の世界観で打ち出された冒険アニメで、壮大な世界観とProduction I.Gによる精緻な作画が注目を集めている。
そして、梶浦由記による音楽も、この作品の魅力のひとつ。大海原を行く壮大な曲、和風テイストをスパイスにしたバトル曲、物語のキーとなる「vise versa」(ヴァイス・ヴァーサ)を筆頭とした女性ボーカル入りの曲など、多彩な楽曲が物語を盛り上げる。
全40曲のサウンドトラックについて、大いに語ってもらった!

いろいろな文化が入り混じる「海賊王女」の世界を、音楽でも表現しました

── 原作、監督、キャラクター原案、さらには音響監督も兼任されて、「海賊王女」の中心クリエーターとなっている中澤一登さんが、梶浦さんのファンで、今回のタッグが実現したとうかがっています。

梶浦 とても光栄なことだと思っています。中澤さんの絵はいたるところで拝見していたんですけど、お仕事でご一緒させていただくのは今回が初めてでした。しかも「海賊王女」は、ほぼおひとりで作品の骨格を作られたんですよね。ストーリー性がありながら、ギャグも交えての会話劇でどんどん話が進んでいく感じが、とても新鮮でした。

── 作曲家への楽曲発注のメニューは音響監督が書くのが通例なので、メニューも中澤さんの手によるものだったんですよね。

梶浦 そうですね。中澤さんのメニューは曖昧なところがなく、しっかりした文章で曲のイメージを伝えてくださるものでしたし、作曲に入る前に脚本も最終話までいただけて、途中の話数のこのシーンは後の展開の伏線になっているとか把握することができたので、作曲作業はすごくやりやすかったですね。なによりも、演出や絵作りだけでなく、音関係もすべて中澤さんが担って、疑問点がでてきたとき中澤さんにおうかがいすれば一発で話が通るというのがよかったです。

── 「海賊王女」は18世紀の架空のヨーロッパを舞台にした海洋冒険ものと言っていいと思います。ところが、ヒロインの周りには日本人とおぼしきキャラクターが大勢いたりして、面白い世界観を持った作品ですよね。

梶浦 大航海時代を越えて、多くの人が海を渡っていろいろな土地へ行けるようになった時代って、あんなふうにいろいろな文化が一気に入り混じった時代だったんだろうなと想像しました。お互いによくわかってないまま、世界にはこんな人たちもいるんだと受け入れてやっていくような、そんなワクワクした時代が、この作品の舞台なんだと。そのゴチャゴチャ感を音楽でも出していこうと思いました。

── サントラを聴くと、ヨーロッパの上流階級が聴くようなクラシックから、裏街で流れている庶民的な音楽、さらに和のメロディまで入り混じっているように感じました。

梶浦 中澤監督とも打ち合わせでそのあたりの話をしたんですけど、ヨーロッパの特定の国を感じさせたり、和の要素を強く打ち出すのは、この作品には合わないだろうと。それよりも、ここではないどこかをイメージさせる、漠然と異国情緒のある音楽が一番合うのではないかという結論に達しました。物語が進むごとに明らかにイギリス海軍だとわかる人たちには、国がイメージできる音楽を付けてますけど、国籍を限定して作ったのはそれくらいですね。昔の曲で「異邦人」ってあったじゃないですか。あんな感じで、明らかに異国の音楽なんだけど、どこだかはわからないという感じにしていきました。

── フェナや雪丸が巡っている土地も、ヨーロッパのこのあたりかな?と想像はできるんですけど、地図を出したりして明確に描くようなことはされていないですよね。それに明らかに架空の街や土地も出てきますし。

梶浦 それぞれ現実の街をモデルに描いているようなんですけど、やっぱり架空の世界観なんですよね。そこがこの作品の面白さで、昔いだいていた旅への憧れを思い出させてくれますよね。話数ごとにどんどん新しい土地に行って、景色が変わっていきますし。

── まず最初の舞台となった「シャングリラ」が面白い街でした。

梶浦 そうですね。孤島にあって、ヨーロッパの街らしさもあり、バザーの風景などを見るとアジアンな雰囲気もあり。娼館や酒場が描かれるシーンは、土地柄というよりもどことなく怪しい雰囲気を匂わせたかったので、アコーディオンを使って。でも決して品は悪くない歓楽街なので、場末感は出さないように気をつけながら作っていました。

── DISC1から具体的な曲名をあげつつ、解説をおうかがいしたいと思います。まず3曲目の「the red-light district at night」が、今おっしゃった歓楽街の曲ですね。哀愁がありつつ、ガヤガヤとした夜の街の喧騒が感じられます。

梶浦 にぎやかで人の息が感じられるということでは、娼館というよりも酒場感が強い曲になっていますね。

── 「the red-light district at night」も含め、サントラの序盤は1話で使われた曲が多い印象でした。

梶浦 曲順はディレクターさんに決めていただいたんですけど、だいたい本編で使われた順番だと思います。特に前のほうの曲はそうですね。

── 4曲目の「happy feeling」と次の「noisy times」は明るい曲で、フェナがアンジーに逃亡計画を聞かせているシーンで使われました。「noisy times」は3話の街を散策するシーンなどにも使われていて、陽光の下の健康的な街を連想させる曲でもあります。6曲目の「a small pearl」は一転して切ない曲で、フェナが過去を振り返るシーンで使われていました。

梶浦 今回はオープニングテーマの「海と真珠」も私が作らせていただいたので、そのメロディをサントラにも使っているんです。特にフェナの曲に使うことが多くて、自分の曲なので自由にアレンジしていますね。

登場人物の中では、アベルのために作った曲が一番多いかもしれません

── その後になると、1話の展開に合わせてバトル曲が並んでいます。オットーとサルマンという老騎士たちの活躍を表現した8曲目「the old knights」は勇ましく壮大な曲で、逆に2人のコミカルなキャラクターを強調しているように感じました。追っ手から逃れるサスペンス満載の「he’s behind your back」に続く10曲目の「you have to choose your way」は明るさのあるバトル曲です。雪丸たちが颯爽と戦うシーンに流れる曲で、ほかの話数でもよく使われています。

梶浦 これと12曲目の「the sea is never without a wave」もバトル曲になりますが、「海賊王女」のサントラでは、こういう系統の音楽はそれほど多くないんです。基本的には旅、冒険の物語で、誰かと戦って危機を乗り越えないといけないという展開が毎回あるわけではないので。

── 「the sea is never without a wave」には冒険のワクワク感も入っていますし、我々の現実とはまったく違った世界の魅力を描いた曲のほうが多い印象でした。

梶浦 作曲するにあたって参考にいただいた背景美術がとても美しかったですし、メニュー的にも情景を思い浮かべながら作りたくなる曲が多くて、色彩豊かなサウンドトラックにできたことがうれしかったですね。メニューに「カツオ2号の冒険」とか書いてあると燃えるじゃないですか(笑)。英語によるサントラの曲名はCDになったときに付けられるもので、実際に制作しているときはMナンバー(※ミュージックナンバー。制作サイドで用いられるBGMの整理番号であり曲名に代わるものでもある)で呼んだり、メニューにある仮タイトルで呼んだりするんですけど、中澤さんが付けられた仮タイトルは、ストレートでありながらイマジネーション豊かで、想像力を刺激されるんです。「老騎士のテーマ」とか「未知なる島」とか、グッとくる言葉が並んでいました。

── 11曲目の「his name is Abel」はタイトル通り、アベルのテーマです。重要な敵役で、かっこよくてやさしく、時に残酷さも見せる魅力的なキャラクターですね。

梶浦 アベルは最初、貴族然としたたたずまいで登場するんですよね。イギリスの優雅な貴族みたいな感じだったんですけど、次第に白から黒に変貌していくので、音楽も優雅でありながら変貌しやすいように作っているんです。「his name is Abel」も上品な感じなんですけど、1音外すとあぶなく聞こえるような曲になっています。アベルの曲は「his name is Abel」を基本に、いろいろなバリエーションがあって、どのキャラよりも多いんじゃないかな。「his」がタイトルに付いている曲はだいたいアベルの曲です。

── アベルは登場人物の中で一番変貌していくキャラクターですからね。

梶浦 そうですね。ほかのキャラクターはあまり裏表がないんですけど、アベルは陰があるので。

── タイトルに「his」が付いた曲の中にはメロディがほとんどない、海外のサスペンス映画のような曲もあります。

梶浦 アベルの怖さですね。メロディというのは基本的に理性的なものなので、きれいに響けば響くほど怖くなくなってしまうんです。聴いていても音程が取れないような曲のほうが怖さが出るんですね。

── バトル曲はDISC2の後半にも数曲入っています。こちらはストーリーが進んでいってからのバトルなので、重さがありますね。14曲目の「take action!」は和のテイストが混じった、かっこいい曲でした。

梶浦 このくらいの混じり方でいいのかなと。雪丸たちは見た目が完全に侍なのでそれで十分伝わる気がしますし、侍が活躍するシーンでいかにも和風の音楽を流してしまうと、違和感がなさすぎて面白くないというか。全編、侍の物語なら違和感を出す必要はないと思うんですが、洋風の世界観に和のキャラクターが入り込んでいるのが「海賊王女」なので、やっぱり違和感を出したいなと思いました。

── 7話で、雪丸が颯爽と現れてフェナを救うシーンでの「take action!」は印象的でした。冒頭のリズムが鳴る部分を取って尺八のような笛の音から使われていたので、より和テイストが目立って、アベルの船に先陣を切って踏み込んできた雪丸のかっこよさが、この曲によって際立ちました。

梶浦 雪丸たちの軍団は、やっぱりかっこいいですよね。個人としての強さもそうですが、会話のテンポ感がよくてチームとしてのまとまりを感じます。普段のときもベタベタし過ぎずクールな距離感があって、でも仲はよくて。あのチームに入りたいと思いますね(笑)。

── そして戦いになると本当に強くて。「海賊王女」の殺陣は、流血もちゃんと描かれていて、かなり迫力があります。刀で戦っているということが、伝わってくるんですよね。

梶浦 容赦のない殺陣ですよね。人もたくさん死んでいきますし、あの世界における戦いというものを、正面からしっかり描いていると思います。

「vise versa」ほか4曲を、Joelleさんに歌っていただきました

── 今回のサントラには、Yuki Kajiura LIVEにも参加されているJoelleさんのボーカルをフィーチャーした曲が4曲入っています。まずはDISC1の17曲目「fight to the finish」。これも和テイストが含まれたバトル曲です。それからDISC2では、5話で遺跡を訪れたときの神秘的な曲「ruins」が、まずは1曲目に収録されています。この2曲も聴きごたえがあるんですけど、ボーカル入りのサントラで最重要曲は、DISC2の6曲目「vise versa」です。

梶浦 Joelleさんはそもそも、「vise versa」を歌っていただくためにお声がけしました。劇中でこの曲を歌っているのは誰か、というのが重要だったんですね。フェナ本人ではなく、お母さんのヘレナなんです。温かいような、でもちょっと冷たさもあるような、母性を感じさせるような、逆に感じさせないような二律背反的な深い歌声がほしくて、Joelleさんにお願いしようと。

── 「vise versa」は「逆もまた然り」という意味のラテン語なんですよね。この意味が物語の最大の謎に絡んでいくことになって。

梶浦 このタイトルは中澤監督の指定でした。でも、歌詞は私が作った造語なんです。実は監督が書かれた日本語の歌詞が最初にあって、私はそれに合わせてメロディを書いたんです。でも、日本語の歌詞のほうは劇中で歌われないことになって。

── そういう経緯があったんですね。「vise versa」が物語にとって重要な曲だとわかってから1話を見返すと、実は冒頭でフェナがメロディを口ずさんでいて、一番最初にすでに歌われていたんだと驚きました。それから、15曲目の「what she was here for」もJoelleさんのボーカルで、劇中では若いときのヘレナが口ずさんでいた曲として流れました。

梶浦 聖母のような神々しさ、やさしさのある曲で、中澤さんのメニューには「アベルの狂気を溶かしていく」と書かれていました。この曲はボーカル入りにしてほしいという指定はなくて、私が勝手に作ってしまったんです。頭のメロディから作り始めて、「これ途中から歌が入ってきたら、きれいだな」と思って。

── でもボーカル入りにして大正解というか、物語にとってすごく重要なボーカル曲になりました。

梶浦 母性があって、アベルから見たヘレナというイメージの曲だと、私は解釈しています。だから、本当のヘレナのイメージとは重なりきらないんですね。

── 「what she was here for」を越えて、16曲目以降は物語のクライマックスを彩る曲になっていきます。旅の最終目的地が見えてきて、そこに何があるか、どんなドラマが待っているかという。

梶浦 そうですね。いろいろなことを達成したり、想いを告げたり告げられたり、または想いが破れたりと、いろいろな意味でのクライマックスの曲が並んでいます。

── 最後の収録されている「the land of east」はサントラ最長の7分24秒という尺になっています。この長さから類推するに、シーン合わせ(尺合わせ)で書かれた曲だと思うのですが、いかがでしょうか?

梶浦 はい、最終話用に尺合わせで書いた曲です。もともと原型となる曲があったんですけど、最後は尺合わせにしたいということになって、この曲だけは完成した本編映像を見ながら作っていきました。絵ができるのを待って、一番最後に作った曲です。この曲の後に、実はもう1曲流れることになるんですけど、それは放送をお楽しみにしていてください。

「海と真珠」の冒頭のコーラスは、水夫が歌う舟唄をイメージしました

── 最後にサントラにはTV-EDITバージョンが収録されるオープニングテーマ「海と真珠」について、お聞かせください。最初におっしゃっていたように、サントラにもこの曲のメロディが流用されていて、より印象深い曲となりました。JUNNAさんとのコラボはいかがでしたか?

梶浦 すごく楽しかったですね。JUNNAさんが今まで歌ってきた曲はかっこいい曲が多かったので、作曲では悩んでしまって。私から見たJUNNAさんのイメージに合う激しさがありつつ、「海賊王女」のダークな部分に焦点を当てた陰影のある曲を、最初に作ったんです。でもこの曲は「海賊王女」のオープニングテーマとしては暗すぎるんじゃないかという話になって、じゃあ、もっと明るくしようと。

── 「海と真珠」は2番目にできた曲だったんですね。

梶浦 そうですね。海を旅するというイメージで使った曲で、私自身、気に入っています。JUNNAさんもこの曲をしっかりつかんできてくださって、気持ちよく円滑にレコーディングすることができました。JUNNAさんの歌声は解放感にあふれていて、それに中澤さんたちがとても美しい映像をつけてくださったので、毎回、オープニングを見るたびにほれぼれします。

── JUNNAさんのボーカルには芯があるんですよね。

梶浦 そうですね、強い女性という感じで、フェナとイメージが重なります。冒頭の舟唄のようなコーラスもすばらしかったですね。私はワーグナーのオペラなどによくある、水夫の合唱の曲が大好きなんです。この曲も、JUNNAさんがひとりで歌っているんですけど、「ヘイヘイヨー」と水夫が合唱しているような感じから始めたくて。造語は、主題歌を書くときはあまり使わないんですけど、この曲だけは合うなと思って使ってみました。

── サビも伸びやかで、海を船で進んでいる感が出ていると思いました。

梶浦 最近の曲は音数が多い傾向にあるので、こういうふうに伸ばして歌うのはJUNNAさんにとっても新鮮だったみたいです。

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