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【インタビュー】作曲家・梶浦由記が語る! 「SAO」シリーズ劇場版最新作「劇場版 SAO プログレッシブ」のサントラは新しさと懐かしさを感じる1枚に
2021年10月29日 19:000
劇場版アニメインタビューアーティストインタビュー
【インタビュー】作曲家・梶浦由記が語る! 「SAO」シリーズ劇場版最新作「劇場版 SAO プログレッシブ」のサントラは新しさと懐かしさを感じる1枚に
2021年10月30日から全国の劇場で公開される「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」。シリーズの原点である《アインクラッド」編をアスナの視点から語り直した、ファン注目の1作だ。サウンドトラックを手がけるのは、もちろん梶浦由記。CDは劇場公開の1日前に発売されることが決定している。
シリーズの原点に戻った作品ということで、制作にもより熱がこもったという梶浦。本作品のサウンドトラックの全貌を語り尽くしてもらった!
改めてTVシリーズ第1期のときに、いい曲を作っていたんだなと思いました
── TV番組「セブンルール」の取材を受けたとき(放送は2021年6月8日)、ちょうどこのサントラの制作時期だったんですよね。番組内のインタビューで制作期間はトータルで1か月だとおっしゃっていて、驚きました。
梶浦 まるで、劇場版のスタッフさんから1か月しか制作時間をいただけなかったかのように聞こえてしまったかもしれないんですけど、そうではなくて、ひとつの作品にかける私の集中力が1か月しか持たないんです。だからその期間にぎゅっと集中して終わらせるか、少し休んでまた続きをやるかという、どちらかなんですね。
── いろいろな作品のお仕事を同時並行させるのではなく、ということですね。
梶浦 いくつかの作品を並行して進めるというのは本当に苦手で、私はシングルタスクみたいです(笑)。途中でどうしてもほかの作品の音楽を手がけなければならなくなったときは、なかなか元の作品に戻ることができず、時間のロスが著しいんですね。特にサウンドトラックの仕事は、楽曲のテーマが常に3つか4つくらい頭の中にあって、全体の設計図ができ上がった状態で作っていて、いったん、その作品から離れてしまうと、それが消えてしまうんですね。ですから、脚本をもう一回読み直して、作った曲も聴き直してという作業が必要になってくるんです。
── サントラは1曲1曲が独立しているのではなく、同じストーリーの中でつながっているわけですからね。
梶浦 そうですね。ですから、こちらの曲で使ったテーマをこの曲でも匂わせようとか、いろいろな構想が頭の中にあって、(ほかの仕事を挟んだことで)それが全部消えてしまうと、元に戻すのがすごく大変なんです。
── 「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」は、一番最初の《アインクラッド》編をアスナ目線で描き直すという作品です。サウンドトラックの作り方にも、それが大きく影響したのではないでしょうか。
梶浦 スタッフさんやファンの方々、みなさん一緒だと思うんですけど、TVシリーズが「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」で大団円を迎えて、ひとつの大きな物語が終わった後で、もう一度はじまりの地である《アインクラッド》に戻るということはすごく感慨深くて、物語好きとしては、純粋にうれしかったですね。
── キリトとアスナの出会いから、また描かれるというのはエモいですよね。
梶浦 そうそう、このころはまだこんなに初々しかったのねという(笑)。
── サウンドトラックの方向性については、河野亜矢子監督や音響監督の岩浪美和さんから、どのような要求があったのでしょうか?
梶浦 基本的には《アインクラッド》編の音楽を踏襲するということでした。TVシリーズのときと同じシーンも出てくるので、そこは同じ曲でいきましょうという提案が岩浪さんからあったりして、音楽的にもあのころに戻った感があるものにしましょうという話になっていきました。
── タイトルの最後に「~progressive mix」と付いている曲がサントラ盤の前半に5曲入っていますね。
梶浦 それらがTVシリーズと同じ楽曲です。TVシリーズのときはステレオミックスなんですけど、今回は映画なので新たに5.1chミックスにしたということですね。TVシリーズの曲をアレンジしたものはタイトルを変えてますが、本当にそのままでミックスだけ変えたのが、この5曲です。さらに今回は、アスナのテーマを多用しましょうということになりました。
── アスナ目線での物語ですからね。
梶浦 アスナのテーマを使ったバトル曲を当時も作ったんですけど、アスナが戦うときはだいたいキリトが一緒で、彼が大活躍するので、アスナ独自のバトル曲はほとんど劇中では使われなかったんです。また、そのほかのシーンでもアスナのメロディがピックアップされること自体、TVシリーズでは少なくて。それを今回、よみがえらせましょうということになり、岩浪さんからいただいたメニューの半分くらいはアスナメロのアレンジだったと思います。私にとってはすごく懐かしいサントラになりましたね。改めて、TVシリーズのとき、いい曲作ってたんだなあって思いました。自分で言うなって感じですけど(笑)。
── いえ、本当にすばらしかったです。
梶浦 私の「ソードアート・オンライン」に対する萌えが、特に初期のサントラには詰まっているんです。初期は特にヘビーな世界観ではありましたが、やっぱりゲーマーが夢見る世界なんですよね、仮想空間にフルダイブできるというのは。仮想世界は幻想的で美しくて、ゲームの世界はやっぱりこうだよねという背景がアニメにあふれていました。それに音楽をつけられることに、私自身すごくワクワクしていたんですよね。あのころの感覚を思い出しながら制作できたのが、今回のサントラの楽しかったところでした。私の生きている間に「ソードアート・オンライン」みたいなゲームが現実でも可能になってほしいですね。ログアウトできず、ゲーム世界に閉じ込められるのは困りますけど(笑)。
── たしかに(笑)。魅力が多い作品で、2012年にTVシリーズがスタートしたとき、「ソードアート・オンライン」がすぐにファンの心をつかんだのは必然という感じがしました。
アスナとミトが冒険を楽しむ曲では、「SAO」の新たな世界観を描くことができました
── 今回の劇場版では、ミトという新キャラクターが出てきます。アスナの現実世界の友だちで、ゲーム世界でも一緒に行動することになる女の子です。梶浦さんは、どのようなキャラクターだととらえましたか?
梶浦 優秀なゲームプレイヤーであることは確かなんですけど、普通の子の立場を代表しているキャラクターだなと思いました。私たち視聴者の立場に近いというか、「自分があの世界に行ったら、どんな行動を取るだろう?」、「戦いでこういう状況になったらどういう選択をするだろう?」と、視聴者がストーリーを自分に当てはめて考えるためのフックになっているキャラクターなんですよね。そういう意味では、彼女の登場によってまた新たな視点が作品に加わったんじゃないかなと思います。
── 同じ女の子同士だし、現実世界でも知り合いだったということで、アスナとミトのやり取りはナマっぽいんですよね。
梶浦 今まではずっとキリト視点で、非常に強い人から見た世界だったわけじゃないですか。戦闘に突っ込んでいっても死なないし、困っている人は助けられるし。でもミトやアスナにはキリトと同じことはできないので、彼女たちの視点を通して、美しくて楽しいだけではない、あの世界の過酷さを改めて味わうことができるのが、今回の劇場版なんです。
── アスナとミトの関係性が、特に前半ではしっかり描かれていました。2人のドラマを、音楽ではどのように表現しようと考えましたか?
梶浦 今回、アスナとミトが2人で力を合わせて冒険をしているシーンで流れているような、冒険の楽しさを表した楽曲は「ソードアート・オンライン」のサントラには今までなかったんですよ。今回はそれを作れたのも楽しかったですね。ミトのほうがアスナより強くて、アスナは自立心がそれほど育ってなくて、まだ考え方も甘くて、そんな2人がゲーム世界を楽しく闊歩しているようなシーンって、今までの「ソードアート・オンライン」にはなかったんだなって思いました。
── 曲順で言うと10番台に入っているのが、今おっしゃられた曲ですね。
梶浦 そうですね。
── その前には「she is my friend」というタイトルの曲が、3バージョン入っています。これらは物語の序盤の、現実世界でのアスナ(結城明日奈)とミト(兎沢深澄)の出会いと交流に使われた曲ですね。
梶浦 ミトが現実世界で深澄として最初に登場したときは、アスナと同じクラスのクールな女の子という感じで、そういう子のイメージで作ったのが、5曲目の「she is my friend」ですね。そこからミトの、クールなだけじゃないほかの一面が出てくるごとに「she is my friend #2、#3」と同じメロディを使いながらも、楽曲の雰囲気が変わっていきます。今回のサントラで唯一、100%新しいメロディが使われているのがミトに関係する曲で、ほかの曲は新曲でも、ファンにとってはどこか耳なじみのあるものになっています。
── たとえば、19曲目の「you can do it!」はアスナとミトが戦いの練習をしているときに使われた曲ですが、青春の要素がたっぷり詰まった曲になっていました。
梶浦 ミトと力を合わせて努力して、今までできなかったことができるようになっていくアスナの姿が、すごく新鮮でした。
── 物語も後半になると、厳しい戦いが描かれるようになって、サントラの雰囲気も変わっていきます。
梶浦 やっぱり物語のキモはキリトというか、彼がかっこよく見せ場をさらっていきますから。
── 取材にあたって本作を拝見させていただいたのですが、やっぱりキリトは最初からかっこいいなと思いました。
梶浦 「ソードアート・オンライン」の一番の魅力は、やっぱり「キリトくん、かっこいい!」ですよね。ただ、アスナと出会ったばかりのときの不器用な接し方は、逆に新鮮でした。アスナも辛い思いを抱えていて、キリトはキリトでトラウマがあったころなので、なかなか歩み寄ることができなくて。2人の最初はこういう感じだったんだなあと、本作を見て思いました。
アスナ視線の作品ということで、バトル曲はよりエレガントになりました
── ボス戦が描かれるクライマックスは、勇ましく壮大なバトル曲が続きます。曲順で言うと38曲目「we just have to survive」以降の楽曲がそうで、「ソードアート・オンライン」のサントラのかっこよさが、ここに凝縮されていると感じました。
梶浦 クライマックスの戦いはTVシリーズで一度描かれていることもあり、今回はそれにつける音楽をシーンに合わせて作っていきました。
── TVシリーズのサントラは基本的に曲が先にできていて、音響監督がシーンに合わせて選曲していくことになります。劇場版だと、作曲段階からシーン合わせで作ることができるというのが、大きな違いです。
梶浦 そうですね。今回は全曲、絵に合わせて作曲していったので、クライマックスのバトル曲もここまではアスナのターン、ここからはキリトのターンと、2人の戦いに合わせてメロディを使い分けていくことができました。また、強大な敵にひるまず立ち向かっていくシーン、悲惨な状況に陥るシーン、悲しみのシーン、それを乗り越えて再び勇ましく戦うシーンとすべて流れに沿って音楽を作っているので、緊迫感やスピード感をより感じていただけると思います。
── 本当にキリトやアスナの動きの1つひとつと、音楽がぴったり合っているんですよね。
梶浦 映像が先にあって、そういう音楽の付け方ができるのは、作曲家としてもすごく楽しいんですよね。戦いの中でセリフが入ってくれば、そこだけ音楽のボリュームを下げてリズムを消して、セリフが終わったタイミングでもう一回、ガツンと盛り上げてという工夫を、作曲段階でできるというのは、非常にやり甲斐があります。しかも、懐かしのアインクラッド編を、今度は絵合わせで作曲させていただけたのですから。
── たとえば39曲目の「to the fierce battlefield」は4分超えの長い曲で、いろいろな展開があり、造語も使われていて、来た来た来た!と思いました。
梶浦 TVシリーズのときのアスナの曲にもともと造語が入っていたので、今回もアスナの戦闘シーンになると、自然に入ってきましたね。最大のクライマックスにあたるのが、42曲目「we will finish this game」と43曲目「live through our swordland」になります。ここらへんは映像も本当にパワフルなんですよね。「ここまで描いていいの?」というくらいのピンチがあったり、それを越えての壮絶なバトルがあったり。私としても、観客のみなさんが戦いにのめり込めるような曲にしようと、力が入りました。
── 今回のサウンドトラックを総括して、いかがでしたか?
梶浦 やっぱり今回は、観客のみなさんに懐かしいと感じていただける音作りがメインだったと思います。ミトのメロディは新しいですけど、アスナとキリトに関してはTVシリーズのときの曲を劇場版ならではの形にして流すというのが、岩浪さんとの共通認識だったと思います。結果的に、ファンの方の耳になじんだメロディがたくさん入ったサントラになりました。いろいろなシーンで、「あ、この音楽、懐かしい!」と思っていただけたら光栄ですね。
── 完成した劇場版をご覧になって、どう思われましたか?
梶浦 とにかく絵がきれいでした。背景もすばらしいですし、バトルシーンではすさまじい動きをしていて、しかも画面がキラキラしているんですよね。アスナという戦う女の子が主人公ということで、今までの「ソードアート・オンライン」とはちょっと違う雰囲気を感じました。もともと、「ソードアート・オンライン」のバトル曲にはエレガントさがあったんですが、今回はその度合いがさらに増えたと思います。ぜひ、劇場に足を運んでいただきたいです。
── また、「ソードアート・オンライン フィルムオーケストラコンサート2021 with 東京ニューシティ管弦楽団」のライブアルバムも同日発売されます。今年7月3日に東京芸術劇場で開催されたライブの模様を収録した2枚組CDです。
梶浦 自分で言うのもなんですけど、すごくいいライブアルバムです。オーケストラアレンジも演奏も素晴らしくて、会場で聴いていて、「私、いい曲書いたんだな」って思いました(笑)。サントラとは違う世界が広がっているので、こちらもぜひお手に取ってみてください。