This is an archive of the interview from FREE Anican. English translation here.
TVアニメ『セイクリッドセブン』OPテーマ 8月3日発売!!
2011 年にFictionJunctionが放つシングル『stone cold』。待ちに待っていた(待たされた?)この1枚について梶浦由記に聞く。四人の歌姫を梶浦がどのように捉えているか、そして表題曲「stone cold」とカップリングの「ひとりごと」をどのように歌姫に絡ませたのか――。
石が転がっていくような前のめりなメロディだ、と(梶浦)
――曲の元となった、アニメ『セイクリッドセブン』についての印象からいただいても宜しいですか?
梶浦 うーん、作品について語るのって難しいですね。絶対ネタバレしそうで(笑)。でも、ドキドキハラハラというか「じたばた」を感じました。1、2話の脚本と 設定画を全て見せていただいたとき、不思議な力を持つ男の子が、その力を認められずに後ろ向きでいるけれども、少しずつ心を開いていく……、そんな成長物 語だと読み解いたんですね。思い通りにならなかったり、騙されて相手の思うように動かされたり、だけど、実はその人が正しいかもしれなくて、誰を信じてい いか分からない。こういう状況って、事件の規模は違うけれど、「日常の私達が経験するようなことだな」、そう感じましたね。
――そこからどのように曲のイメージを膨らませましたか?
梶浦 「じゃあ、これは石が転がっていく話だな」と。結局、あがいて好転したのかは分からないけれど、あがかないとそこからは逃れられない。そうやってあがいて いくってところですね。だから、転がっていくような、前のめりなメロディにしたいと思いました。そこからAメロがポンと出てきて、続けてサビまで行っ ちゃったんです。出来上がりはわりと早かった曲です。歌詞も、嫌々巻き込まれたけどだんだんと転がり始めるというコンセプトが決まってからは早かったです ね。
――曲については、誰にどこを歌わせるかを決めながら書いた、「当て書き」でしたか?
梶浦 そうですね。Aメロは作った時から頭の中でKAORIちゃんが歌っていたので、頭はKAORIちゃんと決めていました。コーラスもメロディが出来ると一緒 に浮かぶことが多くて。そこでオクターブハモをやりたいと思ったので、KAORIちゃんの一オクターブ下が入っています。あと、下ハモをしている KEIKOちゃんにもちょっと上が入っていますね。なので結構分厚い四声ハモになっているんですよ。だから、あまり生々しくやる曲ではないなとは感じてい ました。バーッと一声ずつ重ねてしまうと「それで全て」という感じになってしまうので、少し重ねて機械っぽくしてみるとか、そういう厚さを出そうと初めか ら考えていました。
――FictionJunction(以下FJ)の曲は当て書きが多いんですか?
梶浦 いえ、いつもはしないですよ。歌姫の4人は得意分野がばらばら過ぎて(笑)。だから、どこでも誰かが歌えるんですね。面白そうな曲を作ってみても誰かが歌 える、という気楽さがあるんです。例えば、(「stone-」の)Aメロの畳み掛けるような前のめりの、それでいてリズムを強調した歌い方はKAORI ちゃんの得意分野ですね。そこにハモるのはKEIKOちゃんが上手い。少し突き抜けていて、天に歌うようなサビはやっぱりWAKANAちゃんの得意分野だ し、高いインター(=間奏)などのハモは貝田さんの得意分野。そういうのが出来てきていますからね。逆に言えば、今回は他にはめようがなかった、というの が正しいのかもしれません。
PVは歌のエネルギーを伝える映像であってほしい(梶浦)
――曲作りの段階とレコーディングで、イメージに違いはありませんでしたか?
梶浦 今回はなかったですね。「この人にこう歌ってもらったらいいだろう」と考えていた通りでした。“裏切り”があった方がいい場合もあるんですけどね。全部を 思い込みで決めるのも何なので。でもこの曲は案外コンストラクティブな曲なので、全部思い通りにいったのは良かったと思っています。
――あえて、予想を外そうとは思いませんでしたか?
梶浦 私、あまり裏切りが好きじゃない人なんです。裏切るための裏切り、ってやつですね。裏切った方がかっこいいと思ったらそうしますけど、これには裏切りの必要性は感じませんでしたね。
――制作時からライブでのイメージもありましたか?
梶浦 正直、作っている時からライブでやるつもりでした。というか、この時期のライブ(=Yuki Kajiura LIVE Vol.#7)でやらなかったら、それこそ裏切りですよね(笑)。でも、「大変だろうな」と思ってました。早口だし、ブレスないし、「KAORIちゃん、 死ぬかな」って(笑)。(ライブで歌い)終わったらとりあえずMC入れてあげないと可哀想だな、と考えていました。
――FJのシングルは前2作でもPVを撮影しましたが?
梶浦 今回も撮っていますよ。少し非現実的な空間での撮影でした。今までは、皆が等身大なPVだったと思いますけど、今回は人工的な不思議さがありますね。
――自身の出演シーンに関して、どんな感想が?
梶浦 「減らしてくれ」っていつも頼むんですけどね。FJはYuki Kajiuraのソロユニットだと腹はくくっているので、映らないといけない覚悟はしているんです。でも、(スタッフの方を向いて)もっと少なくてもいいなって提言してはいます(笑)。
――PVに関して、梶浦さんから要望は出されましたか?
梶浦 私は映像音痴なのでイメージをお伝えするだけで、具体的なことは何も言えないですね。「ここまでは狭い空間で、ここでバッと広がる感じにしたいです」とか ぐらいで。ただ、色々なPVを録ってきて、歌い手が激しく歌っているのに動いていない絵を撮られた時、ものすごく反発したことはあって。歌い手が出す感情 に比例する映像であれば私は他に何もないんですけど、例えば、インターに行くところでヴァイオリンがガッとエネルギーを出していたら、ヴァイオリンを映さ なくてもエネルギーのある映像であってほしいんです。歌い手が泣かんばかりに歌っていたら、泣かんばかりの映像がほしいですね。
――PVとしての基本ですね。
梶浦 そうですね。私もそれが本当に基本だと思います。私にとって大事なのは、感情がきちんと歌に沿っているか、それだけですね。
四人の歌姫に歌ってもらって決めました(梶浦)
――カップリングの「ひとりごと」についても教えてください。
梶浦 「stone-」のカップリングはどんなのでもいいなと思っていて、好きに作ってみました。出来た時からコーラスラインは出来ていたんですけど、「これと これを重ねちゃえ」ってやっていたら、いい感じに全く違うメロディラインが重なって。でも、ここまでコーラスが複雑なことをやっていると、違う声質の人で やらないとぐちゃぐちゃになってしまうんですよね。つまり、FJの四人でやらないと難しいという曲でもあったんです。あと、ソプラノサックスを入れたく なって。コーラスの重ねを四人でやってみたいというのと、ソプラノサックスで録りたいというのと、その二つの欲望が合わさって出来た曲ですね(笑)。その 結果、JAZZY、というとJAZZの方に怒られてしまいますけど、すこーしだけJAZZYな曲になりました。ただ、FJでやったことがない曲だったので 面白そうでしたけど、「FJでいけるのかな」という悩みもありました。
――ソプラノサックスというのは珍しいと思うのですが、何かきっかけはあったのですか?
梶浦 あの、リズムが入ってくるところにコーラスがいて、ピアノがパーンと弾いていて、「あ、ソプラノサックスだな」と。すみません、私、ヤマカンで生きている ので(笑)。でも、テナーじゃ低すぎるし、フルートじゃ高すぎるし、パーンと上に響かせるとしたらソプラノサックスしかない、という感じでしたね。そもそ も、私がソプラノサックスが好きになったのって、バービーボーイズからなので(笑)。
――ただ、今までの自分にはない曲という感覚はありましたか?
梶浦 それはあったかもしれないですね。サントラ的な作りなのかな。シンプルだけどくどいメロディなのでサントラにはならないんですけど。でも、サントラでもないかな? コーラスも全然違うラインだし……イージーリスニングですかね。
――ならソプラノサックスだろう、と?
梶浦 そういう安直な流れだったのかもしれないです(笑)。
――「ひとりごと」では、歌姫にどこを歌わせるかという決め手はどのように生まれましたか?
梶浦 決め手は、みんなに仮歌を歌ってもらって、ですね。自分でも全く分からなかったので、4人に仮歌を歌ってもらい、色々と構築したんです。それで決めました。こういうメロディってもっと朴訥な、声の質だけで歌う人の方が合うんですよね。なので読めなかったんです。
――耳に残る、特徴的な声質の人って確かにいませんね。
梶浦 ブレスっぽくて、その人の声を聴くだけで癒される、そういう人っているじゃないですか? 声の質がすごく特徴的な。でも、4人はそういうヴォーカルではな いので、合わないかもしれないとは思ったんですけど、歌ってもらったら、「こういう曲を歌ったら皆がどうなるのかを私は知らなかったんだな」と、すごく勉 強させてもらいましたね。もっと歌ってもらわないといけないと思いました。「これが得意だろう」という予想が裏切られることはないんですけど、「これは ちょっと苦手だよな」と思っていたことが裏切られて、すごく素晴らしいものが出てくることってあるんですよ。そういう時は、「人を過小評価してダメじゃな いか」と心の中で大いに自分を叱りとばすんですけど(笑)。だから、「ライブでも裏切りを見せてもらう場所を作らなきゃ」とは感じますね。
勢いで歌える曲なので口ずさむと楽しい「はず」(梶浦)
――ライブについての話もいくつか出てきましたが、6月29日と7月10日に行われたYuki Kajiura(以下YK)ライブについては、どのようなイメージで臨みましたか?
梶浦 今までのYKライブって、何が出るか分からない玉手箱的なものだったと思うんです。20曲以上入っているサントラ3~40枚から「さぁ、何が出るでしょ う」と言われても……、っていうところがあるじゃないですか?(笑)。だから、私達が選んだ「これ、どうですか」というのを、「こういう曲もあるんだ」と 楽しむライブだったと思っているんですよ。でも、今回のライブは、「この曲が聴きたくて来た」というお客様が多いライブだと。こんなにリリースが続いたこ とはなかったですし。それなのに最近リリースしたCDからの曲を演奏しないというのは、“ない”ですよね。だから、「この曲を聴きに来た」という人が多い と思っていましたね。そこでその曲を聴いた時に「やっぱりいいな」と思ってくれるのか、「思ってたのと違う」とガッカリされちゃうのかは私達次第なので。 期待に応えるような演奏を今まで以上に必要とされるとは感じていました。今までがいい加減だったというわけでは勿論ないんですけど、楽しさを優先していた ところもあったので(笑)。きちんと頑張ろう、というところですね。
――ライブで初めて聴いた方もいらっしゃると思います。聴いた人、聴いていない人を含めて、今回のシングルに関してのメッセージをお願いします。
梶浦 FJには珍しく解放的な曲なのかな。転がり続けるような、前に進むような曲になっています。4人がはじけていて、ビートも利いた、皆さんに歌っていただきやすい曲だと信じています。作品共々、可愛がっていただければ嬉しいですね。
――歌いやすいですかね?
梶浦 結構、勢いで歌える曲なんです。口ずさむと楽しい「はず!」です。Bメロはちょっと難しいかもしれないですけど。いつも、「次の曲は一人でも歌える曲にしてください」とは言われるんですけど、今回も期待を裏切ってます。英語がからむところは、是非脳内コーラスで(笑)。
Text/清水耕司(超音速)