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ユナは重要なキャラクターでした。──梶浦由記が語る、『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-』の音楽 2017年02月21日

ユナは重要なキャラクターでした。──梶浦由記が語る、『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-』の音楽
2017年2月18日(土)から全国公開が始まった『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』。そのオリジナルサウンドトラックアルバムが、時を同じくしてリリースされた。音楽を手がけたのは、『ソードアート・オンライン』シリーズには欠かすことのできない作曲家・梶浦由記。劇場版の音楽は、いかに作られていったのか?

ユナのボーカル曲から作り始めました

── 今回の劇場版の音楽制作には、どのように入っていったのでしょうか?

梶浦 最初に、アニメの制作陣の方々と打ち合わせをさせていただいたのは、ユナのボーカル曲についてでした。全部で5曲あるんですけど、その中で私は、よりストーリーに絡んでくる3曲を担当させていただくことになりました。

── 劇場版には、新たなゲーム《オーディナル・スケール》が登場します。そのゲーム内に存在するARアイドルがユナ。ストーリーの鍵を握る新キャラクターですね。

梶浦 シナリオ、絵コンテと、アニメの制作作業が進むごとに資料を送っていただいていたのですが、絵コンテ段階で、ユナの歌が、どれだけ作品に大きく関わるかが実感できました。ユナというキャラクターに対する印象が、大きく変わりましたね。

── そこから具体的に、曲を作っていったわけですね。

梶浦 そうですね。曲作りを始めた頃は、まだ神田沙也加さんがユナを演じることが決まってなくて。私は歌い手さんに合わせて曲を書くタイプなので、どうしようかなと、最初はけっこう悩んでしまったんです。その後、神田さんになったというお知らせを受けて、彼女のいろいろな曲を聴かせていただいて。それまでに作った曲に修正を加えて、完成させていきました。

── 神田沙也加さんのボーカリストとしての印象はいかがでしたか?

梶浦 まず感じたのは、声の美しさです。ミュージカルのご経験もあって、歌に対する勘もすばらしくて。レコーディングの時も、打てば響くという感じで、こちらの意図をすぐに理解してくださいました。とてもスムーズで、楽しいレコーディングになりました。

── 梶浦さんが作曲された、ユナのボーカル曲とはどれでしょうか?

梶浦 「longing」、「delete」、「smile for you」です。

── それぞれ、解説をお願いできますか?

梶浦 「longing」と「delete」は、完全にバトル曲です。バトルが始まるという時に、ユナがプレイヤーの前に現れて、歌い始める。そのための楽曲ですね。「longing」は、最初にゲームに接する時のワクワク感をまずは表現した曲で、バトルがどんどんハードになっていくのに合わせて、曲の印象も途中から変わっていきます。

── 「delete」は、重い印象のある曲でした。

梶浦 これは、シリアスなシーンでかかる曲ですね。ユナの曲ではありますが、テーマとしては、《ソードアート・オンライン》が持つダークな一面を取りあげました。

── それは、どんなことでしょうか?

梶浦 TVシリーズを見ていた時に思ったんですけど、あのゲームの中で消えていった人たちの虚しさ、やるせなさって、想像するとすごくツライものがあるなと。私たちが普段やっているゲームでは、けっこう「ながらバトル」をやっていると思うんです。何かを食べながらとか、誰かとしゃべりながらとか。それでも弱い敵だったらボタンの連打で倒せるし、強い敵と戦って、もし死んでしまっても、簡単にやり直せるじゃないですか。でも、《ソードアート・オンライン》では、ゲームオーバーが「死」なんですよね。「私、こんなことで死んでいくの?」って、自分だったら絶対にそう思っただろうし、そういうふうに死んでいった人が、あのゲームにはあまりにも多くいて。ゲームで死んでいった人たち、もしくは親しい人をゲームによって失ってしまった人たちの怨嗟(えんさ)を、曲として表現してみようと思いました。

── 逆に、「smile for you」は温かさを感じる曲です。

梶浦 この曲と「delete」は対照的ですね。実は「smile for you」は、出だしのメロディと歌詞を、「delete」と同じにしていて、こちらは明るい方向に向かっていく。「delete」と対をなすということを、意識的にやった曲です。

── この3曲は、ユナのアイドル曲(「Ubiquitous dB」、「Break Beat Bark!」)とは、雰囲気がかなり違いますね。

梶浦 それはボーカル曲でありながら、BGMとしての働きをしている曲だからです。私が作った曲をユナが歌うシーンというのは、ユナが映るのは歌い出しの部分だけで、あとはバトルに焦点が移っていくんですよね。ですから曲も、間奏がもろにバトルのBGM風だったり、あえて造語コーラスを入れたりして、サウンドトラック的な作りをしました。実は、劇場でかかっているのとCDとでは、ボーカルのミックスも違っているんです。

── どう変えたのでしょうか?

梶浦 元々劇場でかかっている方は5.1サラウンドミックスなんですが、ユナの歌に関してはCDに収録するにあたってステレオミックスをやり直しました。ボーカルのバランスも劇場版ではセリフと当たらないよう小さめですが、ステレオミックスでは普通の歌物のボリュームです。せっかく神田さんにかっこよく歌っていただいたので、それを聴いていただきたいなということで。

《オーディナル・スケール》が本当にあったら、音楽はすごく派手なんじゃないかと思います

── ユナの曲がアップしたら、次はBGMですよね。

梶浦 今回の劇場版の音楽の大きな特徴として、長いバトルシーン、つまりもっとも作品の見どころとなるところで使われている音楽は、ほぼユナの曲なんです。ですから、まずはユナの曲を映像にはめていって、それとのバランスを考えながら、他のBGMを作っていきました。

── どのシーンに、どんな音楽を、どのくらいの長さで付けるかは、アニメスタッフ側の判断ですよね?

梶浦 そうですね。伊藤智彦監督の演出意図をもとに、音響監督の岩浪美和さんが書いた音楽メニューが来て、私はそれをもとに音楽を作っていくという流れです。作ったのは60曲くらいですが、1分に満たない短い曲がほとんどですね。

── サウンドトラックCDには、50曲が収録されています。

梶浦 短い曲を継ぎ足して1曲にしたものが、いくつかあるんです。

── シーンに合わせてBGMを作っていくということは、映像の完成を待っての作業だったのでしょうか?

梶浦 コンテ撮(絵コンテを撮影して、完成映像の見本になるように動画にしたもの)の段階で始めていきました。プロ・ツールスにコンテ撮の動画を取り込んで、モニターの画面でそれを見ながら、音楽を付けていきました。

── TVシリーズのBGM制作とは、何か違いがありましたか?

梶浦 先ほども言ったように、ユナのボーカル曲が最初にあったというのが、大きな違いですね。普段、BGMを作る時は、一番のクライマックスに盛り上げる曲を持っていくために、このシーンはテンションを落とそう、ここはちょっと上げて後に繋ごうとか、全体の音楽のテンションの曲線を、自分の中で思い描いてから、作業に取りかかるんです。でも、今回は一番盛り上がるのは、歌のシーンじゃなければいけないという意識がすごくあって。歌も含めてのプランニングが必要になりました。それから、劇場版とTVシリーズという違いも、当然あって。

── それは、どのような?

梶浦 TVシリーズは30分に1回あるクライマックスのために、盛り上げる音楽を作るんですけど、映画は1時間半から2時間、ずっと見続けるものなので、TVシリーズのような濃いクライマックス曲を作ると、見ている人を疲れさせちゃうんです。ですから、どうしても、TVシリーズよりは控えめというか、すき間のある音楽になっていきますね。岩浪さんがメニューで指定してきたのも、そういうタイプの曲が多かったです。

── もうひとつ、TVシリーズとの違いとして、今回の劇場版の舞台は、ほとんどが東京、つまり現実世界です。それは、BGMには影響しましたか?

梶浦 現実世界のシーンが多いとは感じましたが、《オーグマー》のAR機能によって、そこがゲームのフィールドに変わるわけですから、見慣れた秋葉原の風景が映っているからといって、リアル秋葉原に合う音楽を流してしまうと、ゲームをしている感覚は醒めてしまうんですね。ですから逆に、より一層ゲームらしい音楽にしなければいけないくらいの勢いで臨みました。普通に現実にいて、自分の横にゲームのモンスターが現れた時、なんのBGMもなかったら、気分が盛り上がらないと思うんです。でも、ゲーム音楽が流れてきたら、たとえその場所が会社の会議室でも、プレイヤーとして戦う気になるだろうと。

── 納得しました。たしかに、BGMがファンタジックでないと、《オーディナル・スケール》は魅力が半減するかもしれません。

梶浦 もし《オーディナル・スケール》が本当にあったら、音楽はより一層派手になっているんじゃないかと思います。
みなさんに待ち望まれている音楽を、素直にお聴かせしたいと思いました

── キリトやアスナたち、メインキャラクターのためのBGMについては、どのような作り方をしましたか?

梶浦 アスナに付ける音楽が比較的多かったという印象ですね。アスナを巡るドラマが、ゲーム外の現実世界では、ひとつの軸になっていたので。アスナの心境の変化によって、音楽が厚くなったり、薄くなったりしています。

── コンテ撮の段階だと、当然、声優さんのお芝居は入ってないですよね。

梶浦 最初の頃は、入っていませんでした。でも、仮の方がセリフを読み上げる声は入っていたので、一応のガイドにはなりました。アニメ制作が進んで、新しい映像がこちらに送られてくるごとに、絵に色が入ってきたり、声優さんのお芝居が入ってきたりして、具体的にイメージしやすくなっていきました。

── TVシリーズのおなじみのメロディも、いくつか使われていますね。

梶浦 これはやらなきゃダメだと思いました。私がお客さんだったら、絶対に聴きたいなと。やっぱりアスナが活躍するところは、聴きなじみのあるアスナの曲がかかってほしいし、最後に「みんな、行くぞ!」という展開になったら、『ソードアート・オンライン』のメインテーマが来てほしいじゃないですか。そういう気持ちのままに、おなじみのメロディを使ってみたらOKがいただけたので、やっぱり正解だったと思いました。

── 伊藤監督や岩浪さんから、TVシリーズのメロディを使ってほしいと言われたのではなく、梶浦さんの判断だったと?

梶浦 そうですね。でも、岩浪さんと話し合ったことがあって、劇場版で初めてアニメの『ソードアート・オンライン』を見る人もいるから、唐突にTVシリーズのメインテーマが流れても、ピンと来ない人もいるだろうと。ですから、メインテーマならメインテーマのメロディを、少しずついろいろなシーンに入れていって、慣れていただいて、本当の使いどころでバーンと来ると。BGMの作り方としてはオーソドックスな手法ですが、そういう流れを作ることには気を配りました。

── 今回のサウンドトラックを総括して、いかがでしたか?

梶浦 楽しかったですね。歌モノが多くて、ミュージカルテイストがあったので、今までのTVシリーズとは違った作り方ができましたし、テンポ感がよくてパキパキとしている作品なので、作っていて気持ちが高まりました。

── TVシリーズの積み重ねがあり、新たな挑戦もあり、と。

梶浦 ただ、『ソードアート・オンライン』に関しては、ファンのみなさんが待ち望んでいるものを、ストレートに差し出したいという思いが強いですね。観客を驚かせるための音楽、観客の期待をいい意味で逆手に取る音楽というのも、作品によってはありだと思いますが、『ソードアート・オンライン』でそれをやるのは違うだろうと。

── TVシリーズの頃から、『ソードアート・オンライン』の音楽は、素直にストレートに作っていると、おっしゃっていましたね。

梶浦 今回も、その方向になりました。ただ、《オーグマー》とか《オーディナル・スケール》という新しいテクノロジーに付ける曲では、新しいモノに触れるワクワク感を出すために、よりキラキラした音を付けてみました。

── 『ソードアート・オンライン』とは、これからもお付き合いが続きそうですね。

梶浦 末長く、お付き合いさせていただきたいですね。ここまで来たら、あの夫婦の孫まで見たいという気持ちになってます(笑)。

── 最後に、完成した劇場版のご感想をお聞かせください。

梶浦 とにかくテンポ感がよかったです。シリアスも笑いも、時には涙も混ぜつつ、魅力的なストーリーが展開していました。バトルシーンは迫力満点で、キリトくんが神々しいほど、かっこよかったです。アスナちゃんは、本当に尽くすタイプで、いい夫婦だなあと思いました(笑)。

── ユナも、いいキャラクターですよね。

梶浦 歌姫としての存在感、説得力がすごくて、神田さんが完璧なユナを演じられていました。思わずホロリとしてしまいました。

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