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Interview originally found here.


『アキレスと亀』音楽・梶浦由記トークショー&サイン会レポート!

10月4日(土)テアトル新宿にて、『アキレスと亀』音楽・梶浦由記トークショー&サイン会が行われました。
主にアニメーションの世界での活躍が華々しい梶浦さん、本作音楽を担当するにあたっての苦労話や北野監督とのエピソード、そしてアニメと実写の違いやプライベートのお話しなどなど・・・、貴重なお話しが盛りだくさん!充実の特別イベントの模様をレポート!

MC:中嶋美和子
登壇者:『アキレスと亀』音楽担当・梶浦由記

MC:今回、『アキレスと亀』の音楽を担当されることになった時のお気持は?

梶浦由記:初めにお話しを伺った時に、画家さんのお話しだと聞いて。前に北野監督の描かれた絵を拝見したことがあって、すごくそれが好きだったんです。今回の作品は、北野監督の絵が作品中にあふれているということで、まずそれを拝見できることが楽しみでしたね。

MC:音楽を担当するというよりも、個人的に絵を楽しみに(笑)?

梶浦由記:詳しくはないのですが、絵を観るのも好きなので、画家さんのお話で、かつ音楽を付けられるというのがすごく嬉しくて楽しみでした。

MC:梶浦さんは、絵や本などを読んで音楽を考える、とお聞きしたのですが。

梶浦由記:そうですね。単純な話ですけど、元々音楽の入っている、例えば映画(を観たり)とか、音楽を聴きながら音楽って出てこないんですよ。もうそこに音楽が鳴っちゃってるので。
そうじゃなくて、好きな本を読んだり、絵を観たり・・・、要はシーンとした“モノ”の状態、そういうところから、やはり音楽ってインスピレーションを受けることが多いですね。

MC:本を読んで音楽がばーっと頭の中に出てくるのですか?

梶浦由記:出ますね。もう自分の中にあるんです。「この本は音楽が出てくる本」っていうジャンルが。

MC:えー?!例えばどんなジャンルなんですか?

梶浦由記:逆に、ミステリーとか時代劇とかそういうものは音楽向きではなくて、詩とか、どちらかというと幻想文学系とか、すごく詩的な文章の方がやはり音楽は出てきやすいですね。

MC:今日は曲を作りたいなと思って本を読むことも多々あるんですか?

梶浦由記:実はあまり無くて、逆に読んでて(音楽が)出てきちゃって、「あ、続きを読みたいんだけど」とか思いながら、でも「忘れちゃうと悔しいから」って、ダーっと書いて(笑)。「続きが気になる~」とか思いながら作ることが結構あります。

MC:それで1曲できてしまうんですね?

梶浦由記:そのまま1曲全部作ってしまうこともあれば、メモだけしておいて後から見て足したり引いたりすることや、「大したこと無いじゃん(笑)」(終了?)っていうことも色々です。

MC:今回の『アキレスと亀』にはかなり絵画が出てきますが、作りやすい映画でしたか?

梶浦由記:作りやすいか作りにくいかと言われると、正直作りにくかったです(笑)。というのは、今まで何作か映像に音楽を付けさせていただいて、映像に付ける音楽ってある意味パターンっていうのがあるんですよ。それは決して悪い意味ではなくって。映像にもある程度のパターン、例えば、イントロ・本編・アウトロっていうのがなんとなくあるのが、割と一般的なんですね。
例えば主人公が「この戦争が終わったら、オレ結婚するんだ」とか「全てが終わったら二人でやりなおそう」って言い始めると、「ヤバイ!この人死んじゃうかもしれない?!」みたいな、そういうの(雰囲気)を出すわけです。読者にも予測できるイントロがあって、そこから結局その人が亡くなって・・・というシーンには、その予告の部分から死んでしまいそうなイントロを付けるわけです。ダーっと悲しいイントロをつけて、その人が亡くなるところでガーっと一番盛り上げて、「悲しいぞ!どうだ!?」って曲で引っ張っていく~っていうある程度の定型パターンがあるのですが、それが全く通用しないんですよ、北野監督の作品は。“パン!”って亡くなっちゃうんですよね。「え?え?!」みたいな。
そういう亡くなり方で、そこに「じゃあ、悲しい音楽をいきなりダーンって流すのが正しいか」と言うと、監督の作品って決して感情が一つじゃないんですよね。悲しいだけのシーンっていうのは実はあまり無くて、悲しいんだけどそこにシニカルな笑いが含まれていたり、色んな感情が、それはきっと観る方によって受け取り方がさまざまで、その映像を観て「悲しい」と思える方もいれば、すごくブラックなものを感じられる方もいれば、笑っちゃう人もいるかもしれない。そういう時に、悲しい曲を流すのはある意味音楽が映像をミスリードすることにもなりかねないので、その意味で始めは悩んだ部分が大きかったですね。

MC:その辺の音楽は、結果はどうされたんですか?答えは見つかったのですか?

梶浦由記:そうですね。ただ、今回は明らかに「せつない」とか「悲しい」っていう風に限定して良いシーンがあったんです。監督もそのようにおっしゃられていて、「このシーンはもう、“悲しい”“せつない”で持っていこうよ」みたいなお話しがあって、そういうシーンがいくつかありましたので。

MC:例えばどのシーンですか?

梶浦由記:非常にわかりやすく言えば、真知寿(まちす)がお母さんと一緒にバスに乗っているシーン、悲しいことがあった・・・幼年時代の別れ~というシーンは、主人公の心の中にある“せつなさ”とか“悲しさ”を前面に出して奏でて良いっていう風にお互いの共通の意識があって作れたんです。でも、そうじゃない場面は、監督の作品は感情に音楽を付けちゃいけないんだなっていう風に思いまして。
普通、感情に(音楽を)付けるんですよ。割と、ですけど。優しいシーンには優しい音楽を付けるとか、悲しいシーンには悲しい曲を付けるっていう風に、映像音楽って感情に付けていくことが比較的多いのですが、北野監督の場合は、特にこの作品の場合は、“感情”じゃなくて“絵”に付けようと思ったんです。色んな絵が出てきますよね。ニワトリの絵とか、若い頃に描いたちょっと情熱的な絵とか、そういうシーン・シーンに、そのシーンを説明できるような“絵”がちゃんと出てくるので、その“絵”に付けようと思って。

MC:ポイントになった“絵”は何枚かあるんですか?

梶浦由記:ニワトリのシーンは、そう考えたきっかけになったシーンでした。全体的にすごく好きな絵がたくさんあったので、感情を説明するんじゃなくて、「この絵を見て、自分はどういう音楽を鳴らしたいのかな」っていう風に考え始めたのがきっかけですね。自分の中ですごく悩んでいた時に、「あ、絵に付けよう」と思い始めた途端にパッと進み始めて。あとは比較的スムーズに行きましたね。

MC:期間としては何日くらいかけて?

梶浦由記:一ヶ月くらいですかね。

MC:かなり短いんじゃないですか?

梶浦由記:いえ、そんなもんです。(笑)

MC:期間は決められているのですか?

梶浦由記:大体、サウンドトラックってお尻が決まっているものなので、例えば上映がいつからとか、1ヶ月の作品もあれば2ヶ月の作品もあって、大体お尻合わせというのかな、そういう風に作りますね。

MC:梶浦さんの作品はアニメが多い印象があるのですが、今回は実写で、映画で、違いはありましたか?

梶浦由記:自分の中で明確な違いというのは、もちろん作品にもよって全然違うことではありますが、実写って“空気”があるんですよ。“空気”の音が。
もちろん実写で後で台詞を別に録るものもありますが、大体その場で台詞も録ってたりしますよね。もしくは、台詞をその場で入れてなくても、その場の空気の音がちゃんと残っているんです。
例えばこの作品には、遠くで鳴いている犬の音とか、ニワトリの声とか入ってますよね。風の音とか。実写には、広いところで撮った映像には、広い空気の音がちゃんと入っているんです。だから空気の音がいらないんです。
でも、アニメーションは、後からもちろん人工的に風の音を付けたりしますけど、それはあくまで後から付けたもので、その現場の音っていうのは無いんですね。だから、アニメーションの音楽を付ける場合は、まず空気の音を作ろうというところから始めることが多いです。広いシーンに流れる音楽だったら、広い音が良いんです。だけど、実写の場合は、広い音が入っているので、そこに狭い音の音楽が流れても良いんです。

MC:ただ逆に、監督の撮った空気の音を邪魔しないようにとか、作り手としては難しいところではないですか?

梶浦由記:そうですね、だからそこでせっかく広い空気の音がちゃんとあるのに、音楽まで広い音を出そうとするとかぶっちゃいますよね。その辺はやはり、その映像が意図していることを邪魔しないようにって考えますね。それはアニメも実写も同じですけれど。

MC:今回出来上がった音楽を北野監督に聴いてもらった時はいかがでしたか?

梶浦由記:とってもドキドキしました。それはもう(笑)。

MC:北野監督の感想はいかがでしたか?

梶浦由記:こんなこと言っちゃっていいのかな(笑)?何もおっしゃらないんですよ、監督が。でも、最初から最後までずっと黙って聞いてらして。普通、音楽家が音楽を持っていくと、1曲聴き終わるごとに「この曲はどうだね、ああだね」という風に話し合って進めるものなんです。だけど北野監督は、1曲聴き終わっても無言。「はい、次」みたいな感じで最後まで聴いて、最後になって「いいんじゃない?!」「終わり」、みたいな(笑)。

MC:逆に、その一言はすごいほめ言葉かと。主演の樋口可南子さんや麻生久美子さんも、監督は何も言ってくださらないのでずっと不安だったとおっしゃってました。

梶浦由記:そうですね。もうこんなに無言なミーティングは初めてだったので、さすがに途中で冷や汗だらだら状態でした(笑)。

MC:でも監督は逆に、言うことがないから、それで完璧だから何も言わないんだっておっしゃられてました。それが最高のほめ言葉なんだと思います。

梶浦由記:そう思っておくようにします(笑)。

MC:梶浦さんはとてもお忙しいと思いますが、普段はどういった生活をされているんですか?音楽漬けですか?

梶浦由記:音楽作るのも好きですけど、じゃあ暇な時に何をやっているかって言われると、音楽聴いてたりするんですよね(笑)。音楽を仕事にしていることの一番の欠点は、音楽を聴きながら仕事ができないことなんです。
よく文章を書いている方や、絵を描いている方が、音楽を聴きながら仕事をする~みたいなことを言われますよね。「オレはこういう音楽が好きで、こういうのを聴きながら仕事してるんだぜ」っていうのを聞くと、すごくうらやましいんです。音楽を聴きながらできないのが一番の難点なので、自分の好きな曲は暇な時間に聴くしかないんです。だから余暇ができると音楽を聴いて過ごすことが結構多いですね。

MC:本を読みながら音楽を聴くこともなさらないんですよね?いつ音楽が生まれてくるかわからないですから。

梶浦由記:しないですね。逆に本を読みながら音楽を聴いてると、音楽を聴いちゃって本が読めなくなっちゃうので。だから本を読む時は、無音ですね。

MC:小さい時から、例えば試験勉強の時なども音楽を聴かずにされていたのですか?

梶浦由記:ガンガン聴いてました(笑)。試験勉強は聴いてましたね。

MC:ゆっくりお部屋でくつろいだ時に、どういう音楽を聴かれているんですか?

梶浦由記:移動時間とか、iPodを持ち歩いて聴いたりもしますね。(ジャンルは)色々聴くので、クラシックも好きだし、オペラも好きだし、その日によって全然バラバラです。最近はエレクトロニカ系とか好きで、色々ですね。ロックも好きだし。

MC:ジャンルは問わずなんですね。ご自分のCDとかは聴かれるんですか?

梶浦由記:全然聴かないです(笑)。やっぱりねぇ(笑)。自分の好きなミュージシャンさんが他にいらっしゃるので、そういう方のを聴いてますね。自分のを聴くと反省会になっちゃうんですよ(笑)。そうじゃないですか?自分のお仕事って。周りの人がどんなに良いって言っても、自分で振り返るとものすごく細かいところまで反省会が心の中で始まっちゃうので(笑)。

MC:特に好きなミュージシャンは?

梶浦由記:いやぁ、色んな人好きなので・・・。ただ、子供の頃は父親と母親がクラシック好きなので、ずっとクラシックばかり聴いていて、そこからすごくありがちですけど、ビートルズから洋楽を聴くようになって、ABBAとか当時流行っていたポップスとかガーっと聴いて。
その中でマイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)っていう、あの人は何(ジャンル)なんでしょう?、プログレっていう風によく言われますけど、その作家さんの作品を一時すごく好きでハマって聴いていたことがあって。 それまではバンドもやってましたし、歌モノばっかり作ってたんですけど、マイク・オールドフィールドを熱愛するようにって「インストゥルメンタルをやってみたい」と思うようになったので、そういう意味では未だに思い出深いというか、思い入れが深いアーティストさんですね。

MC:音楽を付ける時に、アニメと実写でどちらが好きとかはありますか?

梶浦由記:どっちも好きですけど、アニメーションの世界って、クリエイターさんが比較的若いんです。映画界とか実写の世界って、日本でもすごく“伝統の重み”みたいなものがありましてね。それに比べてアニメ界っていうのは、みなさんすごく若い人で文化的にも若いので、みんな冒険をしたがるんですよ。音楽的にも冒険を許してもらえる土壌があるので、すごくやりがいがあるんですよね。
それに比べて実写は、どちらかというと伝統映像音楽みたいなものを求められるところがあって、そういう意味で違いをすごく感じることはあります。でも、どっちも好きですね。

MC:アニメの場合は冒険されるのですか?

梶浦由記:アニメの場合は、どっかで裏切りたくなっちゃったりとか、求められているものとあえて違うものをつけて、相手の反応を見てみたりとか(笑)、そういう実験をお互いにします。向こうもやっぱり「こういうものが欲しい」と言いつつ、でも「他の冒険は無いか?無いか?!」って探しているような人がすごく多いので、そういう意味ではすごくおもしろいですね。

MC:現在、アニメで手掛けられている作品はありますか?

梶浦由記:実は今日、このテアトルさんのレイトショーでやっている『空の境界』(テアトル新宿他にて上映中)っていうアニメーションのシリーズがあるのですが、そのシリーズのアニメーションの音楽をずっとやってまして。その『空の境界』っていう作品は全部で七章立ての映画なですが、その五章が今夜ここでやってます(笑)。私も何日か前にこっそり観に来ました(笑)。『アキレスと亀』と2本続けて観て(笑)。
それと、真救世主伝説「北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」が公開中です。

MC:その音楽の聴きどころは?

梶浦由記:たぶん、『アキレスと亀』とは全く違う音楽、作品的に全然違うので、音楽の作り方も全然違っています。『空の境界』の方は「今(昼間)から夜までお待ちください」(笑)と言うわけにはいかないですが、もしよろしければずっとやってますので、テアトルさんで、そちらもご覧になっていただければと思います。
MC:実写版とアニメ版の音楽の違いなどもわかっていただけると思いますよね。
では今回の『アキレスと亀』、この物語をどういう風に受け止められましたか?

梶浦由記:この作品は人によって感想が違うと思うんです。だから、誰の感想が正しいっていうのは無いと思うんです。
ただ私にとっては、初めて観た時「なんて残酷な映画だ」と思いました。売れないアーティストさんのお話しって聞いた時に、自分のやりたいことが頑固にあって、それを突き通したために周りに認められないアーティストの話なのかと思ったんです。そういうのが多いじゃないですか。売れないアーティストの話って。
でも、真知寿って、売れたくて人のコピーはやっちゃうわ、もう人の言うことにこんなに左右されて、でも売れない。あれは痛いですよ。アーティストというものをちょっとでも目指したことがある人にとっては、あれは痛い。まだ、綺麗に「自分の求めるところはこれだ!」って突き進んでいる理想的な話は、ちょっと遠いところにあって、まぶしくきらきら輝いている分そんなに痛さはないのですが、あれはちょっとね、胸に相当きましたね。
ああいう、なんかこういうの(人に左右されるとか)って誰にでもあると思うんです。それがすごくリアルで。またそれをおもしろおかしく描くんですよね、北野監督が。そこで大笑いする方と、「あぁ、痛たたたた」ってなる方と、たぶん両極端でいらっしゃるんじゃないかなぁって思いましたね。あのドタバタ感が、涙と笑いを誘わずにはいられないって感じで。すごくシュールで、でもおかしくて、すごいなって思いました。売れないアーティストをああいう風に描いちゃうのが、何よりすごいなって。その音楽は、本当に楽しい作業、お仕事でした。

MC:これからも実写にもどんどん挑戦していかれるのですか?

梶浦由記:はい、基本的に映像に音楽を付けるというのは、本当にシンプルにすごく楽しい、仕事といえないくらい楽しい作業なので、色んな作品にチャレンジできたらなと思っています。
※Yuki Kajiura LIVE Vol.#3 開催決定!(詳細は下記)

トークショー終了後、『アキレスと亀』サウンドトラックCDを購入した方々へのサイン会を実施! 梶浦ファンから映画ファンまで長蛇の列が・・・。ファンの方々との交流が終始なごやかなイベントとなりました。

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