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Text Interviews » Yuki Kajiura interview on Lisani.jp about FictionJuction’s Parade album

This is purely for Archiving purposes, original source is the lisani.jp website


FictionJunctionの最新アルバム『PARADE』をリリース!様々なコラボが実現した本作とこれからについて、活動30周年を迎えた梶浦由記に聞く
FictionJunctionの最新アルバム『PARADE』をリリース!様々なコラボが実現した本作とこれからについて、活動30周年を迎えた梶浦由記に聞く
FictionJunctionとしては3枚目となるアルバム『PARADE』がリリースされた。今回は前作となる『Everlasting Songs』や『elemental』と違ってタイアップ曲は少なく、一方で新曲とfeaturing曲とカバー曲が混ざり合い、梶浦由記が生み出す純然たるFictionJunctionを味わえる感覚を抱く。現在のFictionJunction音楽を「パレード」と称する理由、収録曲それぞれが持つ背景、そして30周年を機に展開される活動への想いなど、梶浦の言葉の一つひとつが、来る『Kaji Fes. 2023』に向けて増す高揚感をさらに加速させる。

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司

私たちがパレードの中で紡ぐ音楽を聴いてください
――FictionJunctionとしては久しぶりのアルバムですね。

梶浦由記 9年ぶりですからね。ほとんど解散していますよね(笑)。FictionJunctionは私のソロユニットなので解散というのはないんですけど。

――なので、間が空いたことに特別な理由はないですよね。

梶浦 そうですね。単純に、Kalafinaをプロデュースしていたときは年に1枚のアルバムと、毎回それを引っさげてのツアーがあったのでそのために曲を書かなければいけなくて。楽しかったですがそれだけで精一杯だったんです(笑)。逆に、FictionJunctionは自由な活動なので、BGM(劇伴)の仕事をメインでやりながら、余裕があるときに出すくらいでちょうどいいんですよね。

――1stアルバム『Everlasting Songs』が2009年、2ndアルバム『elemental』が2014年と空いていました。

梶浦 むしろ「アルバムなんてもう出せないんじゃないか」「それでもいいかもしれない」と考えていました。今回のアルバムは降って湧いた幸運みたいな感じです。

――タイアップ曲が溜まったわけでもありません。幸運が実現するに至ったきっかけはあったんですか?

梶浦 それはやはり「from the edge」だと思います。あの曲は、梶浦サウンドを歌うLiSAさん、というコンセプトでしたけど、LiSAさんはソロとして(TVアニメ『鬼滅の刃』の)オープニング主題歌も歌われていましたし、エンディング主題歌は別名義で、という話になったんですね。そのとき、私がボーカリストをフィーチャリングしているFictionJunctionという活動のことをお話したら賛同をいただいたんです。それがSACRA MUSICからリリースされ、今回のアルバムに繋がったんだとは思います。だから、「from the edge」はFictionJunctionとして書いたわけではなく、LiSAさんに楽曲提供したときに後付けでFictionJunctionと冠されることになりました。

――ガレージで眠っていたFictionJunctionという車に、LiSAさんが乗り込んでエンジンキーを回してもらったような?

梶浦 そうですね、本当にそう思います。「まだ動くじゃん♪」みたいな(笑)。オイルを入れてもらって「こんにちは」と言ってもらった感じです。KalafinaをやっていたときはKalafina以外に歌物を書く余裕なんてなかったですけど、Kalafinaから離れたことでできなかったことができるようになったというのも事実ですね。すべてお断りしていた楽曲提供ができたり、FictionJunctionのアルバムを出せたり、「こういう未来もあったんだな」という感覚はありますね。何かが終わった後には必ず未来があるので。Kalafinaの3人だってそれぞれに違ったソロ活動という未来を歩んでいますし。しかも、計らずしも30周年記念として出せることになりました。「計らずしも」というよりも「遅れに遅れて」という説もあるんですけど。昨年のツアータイトルが『Yuki Kajiura LIVE vol.#17 ~PARADE~』だったのはアルバムツアーの予定だったからなので。

――「Parade」という曲名、あるいは「PARADE」をアルバムタイトルにした理由を教えてもらえますか?

梶浦  Yuki Kajiura LIVEを支えてくれるミュージシャンとはずっと音楽を一緒にやってきましたけど、FictionJunctionは決してバンドではなく、私の個人プロジェクトなんですね。でも、ここまでずっと一緒にやっていると一時的なバックバンドとは明らかに違うし、みんなすごく口を出してくれるし(笑)。私たちのこの状態を何と呼ぶのだろうと考えていたとき、ベースの(高橋“)Jr(”知治)さんが「俺たちって梶浦楽団って感じだよね」と言ったんです。それがすごくしっくり来て。指揮しているのは私かもしれないけど、同じメンバーで一緒に知恵を出し合いながら歩きながら音楽を生み出す、そんなパレードをしている感覚ですよね。「PARADE」という言葉がぴったりだと思いました。だから、「Parade」という曲を書くよりも前にアルバムタイトルを決めてしまいました。実は前のアルバム(『elemental』)も同じようにアルバムタイトル先行だったので、まったく学習していないと言うか(笑)。でも私はやっぱり、お題をもらって曲を書くことが好きで、タイアップしかりBGMしかり、音楽を作るときに原作って1番のインスピレーションを与えてくれるんですよね。原作からイメージを膨らませることってすごく楽しいんですけど、「パレード」という言葉から曲を書くのも同じでした。みんながパレードの中で紡ぐ音楽を聴いてください、そんな気持ちで「Parade」という曲を書きました。

――具体的な制作としては、まず「Parade」の作曲から始めたんですか?

梶浦  書き下ろした新曲の中で最初に書いたのは、ritoさんとLINO LEIAさんに書いた2曲ですね。お二人とは2022年の『FictionJunctionプロジェクト 参加ヴォーカリストオーディション』からお付き合いが始まりましたけど、アルバム以外にライブにも出ていただきたいし、でも初めてライブで歌う曲がカバーはないだろう、ということで曲を作らせていただきました。「Parade」を作ったのはそのあとで、最後にできた曲が冒頭の2曲ですね。

――タイアップ曲がほとんどだった前作までと違い、今回はノンタイアップ曲や書き下ろし曲がメインとなっているので、できればのちほど全曲紹介をお願いしたいと思うのですが……。

梶浦 ぜひぜひ。

――また、今回も「櫂」や「Beginning」といった曲があたりますが、様々な梶浦さんのお仕事を拝見していると、過去の曲から掘り起こされることも多いように感じます。

梶浦 それはプロデューサーである森(康哲)さんが、「これはいい曲だからいつか」というのを考えてくださっているからでしょうね。私は昔の曲を聴きかえすことはほぼほぼないです。作ったらそのまま置いておくタイプですね。

――クリエイターはそちらが多いですよね。新しく、いいものを作りたい欲求があると思います。

梶浦 そうですよね。だから、ありがたいことに古い曲を引っ張り出してくれるのは基本的に森さんです。森さんが仰るには、私の根っこは変わっていないんだけど、その時期にしか書けないものがあるということらしくて。でもそれはその通りで、「櫂」も「Beginning」も今ではもう書けないですね。

――何が一番違いますか?

梶浦  音数が少ない(笑)。「これでは聴く人が飽きてしまうので見せ場を作って盛り上げよう」といった思いやりが昔の曲にはないんですよ。今の若い人はこのテンポ感に付き合ってくれないだろう、とか。「櫂」はメロディも歌詞も当時のままですけど、唯一、途中に英語コーラスだけを入れたのは、これで終わっていいのだろうかと思ったからです。自分がやりたいことをやって、「はい、おしまい」とバッサリ終わるような曲だったんです。でも、アマチュアというのはそういうものですからね。ただ、35年前の曲と最近書いた「ことのほかやわらかい」が並ぶと、全然変わっていないことがわかりますね。音楽を通してやりたいことの本質、みたいなところで。

――梶浦さんが、音楽を通してやりたいことの本質とは?

梶浦 いや、言葉で言うと恥ずかしいので絶対に言いません。そもそも言葉で言えるくらいなら音楽にしようなんて思わないです(笑)。

<梶浦由記による『PARADE』全曲紹介>
01. Prologue

アルバムの色々なメロディーを散りばめてみた導入曲です。

02. ことのほかやわらかい
気になる言葉を見つけたときに書き留めておくファイルがあるんですが、「ことのほかやわらかい」は何かの広告で出会った言葉だったと思います。「やだ、なんて素敵な言葉!」ってキュンキュンしてすぐ書き留めました(笑)。その言葉をタイトルにして生まれた曲です。あとは、最後にこの曲を作る前、アルバム全体を見渡したら思ったよりもFictionJunctionのど真ん中を攻めていないと感じたんですね。それほど外してはいないけれども少し脇を掘っているような。なので、最後にど真ん中を掘ろうと思い、「Prologue」と「ことのほかやわらかい」をワンセットとして作ったんです。「Prologue」は「ことのほかやわらかい」の長いイントロみたいな感覚ですね。「Parade」で終わって1曲目に戻ったらまだパレードが続いているような、そういう流れを意識しています。曲調はタイトルを少し裏切ったつもりだったんですが、曲順とタイトルだけを発表したとき、気になってエゴサをしたら、梶浦さんのことだから「ことのほかやわらかい」なんてタイトルだけどあまりやわらかくない曲が来るはず、と予想している方が多くて、「わかりやすくてすみません」と反省しました(笑)。

03. 夜光塗料 feat. ASCA
ASCAさんとお付き合いさせていただいて、彼女の声はバンドと相性がいいなあと思っていました。バンドの紅一点みたいなポジションですよね。ハスキーだけどキラキラしている声がすごく素敵なので、ゆったり系の大人可愛いオルタナティブバンドみたいな曲が絶対合うと思っていたところに、チャンスをいただいたのでそういう曲を目指しました。なので、完全にASCAさんの声合わせで書いてみた曲ですね。楽しかったです。

04. Beginning
「櫂」は私も「いつか出せたら」と思っていましたけど、「Beginning」は少し記憶の遠くのほうにありました(笑)。でも、『Yuki Kajiura LIVE vol.#16 ~Sing a Song Tour~』のとき、「この曲を4人でやってみたら?」と森さんから提案され、聴いてみたらたしかに「なるほど」と思えたんです。FictionJunctionでは意識して歌い手さんにソロパートを作るようなことはあまりしないのですが、この曲に関してはミュージカルの自己紹介のように1人ずつ現れては曲を歌い、最後は全員で……、という絵が合う曲だと感じました。なので、原曲にはなかった最後の「La La La…」を付け加えて盛り上げるなど、ライブをかなり意識しながらリアレンジしました。実際、一人ひとりが順番に歌うというのをライブのオープニングでやってみたらすごく良かったんですよね。そのライブ感も含めて今回アルバムに収録したいと思っていました。

05. もう君のことを見たくない feat. rito
この曲は、タイトルと、こんな感じかなという歌詞と、歌い出しのメロディだけ、少し前に作ってあったんです。だけどそのとき、このメロディは「男性」だと感じていて。もう少しテンポが速く、男子がアコギ1本で歌うようなイメージだったんです。だから、もしも男性に歌ってもらう機会があれば、と思いながらそのままにしておいたんです。ところが、ritoさんの声を聴かせていただいたら、ちょっと芯がありつつも寂しさも明るさも含んでいて、しかも、可愛くて女性的ではあるけれども中性的な香りもしました。それは若さかもしれないんですけど、どこかしら初々しさみたいなものを感じたんです。それに、彼女の声を初めて聴いてもらうとしたらバラードがいいと思いました。それでこの曲を思い出し、頭の中でシミュレーションしたら感触が良かったので、歌ってもらうことにしました。歌詞も少しリアルにしています。今のFictionJunctionの中にそこに彼女の初々しい声が入るのが、またすごくフレッシュで良かったですね。

06. 櫂 feat. Aimer
なにぶん昔に作った曲なのでシンプルすぎて。歌の音数は多すぎても難しいですが、少なすぎてもやはり難しい。ポップスより歌曲(リート)寄りな曲作りですね。声の響きが頼りな曲なので憂いは必要だけれども、効かせすぎるとベタになる、歌い手さんをすごく選ぶ曲なので寝かせていました。それが今回、アルバムにAimerさんに参加していただけることが決まったとき、(プロデューサーの)森さんと「もしかして……いや絶対いい!」という話になりお願いしました。こういうテンポ感の曲はどうしたって呼吸が大事ですので、レコーディングはピアノと同録で行いました。チェロだけはあとで合わせましたけど。Aimerさんと出会うために眠っていた曲だったのかと思うくらい、素晴らしい歌をいただきました。テンポ決めや練習も含めて4回くらい歌っていただき、スタッフも含めみんなで「Aimerさん、素敵です……」と言うだけで終わったレコーディングでした。

07. 蒼穹のファンファーレ feat. 藍井エイル& ASCA & ReoNa
本当に光栄なことに、『ソードアード・オンライン』の10周年記念ソングを書かせていただけることになり、しかもボーカルメンバーが豪華すぎて、「どういうこと?」と(笑)。こういった機会がなければ勢揃いしていただくのは難しい方々ですよね。「記念」の曲ですからまず初心に帰るために小説からじっくり読み直し、あらためて心揺さぶられつつ曲と歌詞を書きました。メロディ的には、BGMの中でも一番視聴者の記憶に染みついているだろう「swordland」を取り入れたい、というところが出発地点だったのと、ボーカルが3名いらっしゃるということで、声質や音域にすべてぴったり合わせた曲を書く、という策略が若干難しい所はありました。なので普段歌われないようなことをお願いした部分もあったかと思うのですが、有難いことに皆さん楽しそうに歌って下さり、また皆さんの声質が全然違うので3人重なったときの広がりがすごくて、レコーディングもとても楽しかったです。

08. 八月のオルガン feat. LINO LEIA
LINO LEIAさんは上(の音域)も下もすごく豊かな声を持っていらっしゃるんですけれど、FJとして歌う1曲目としてまず、彼女の高音が響く曲を作りたいと思いました。高音の張り詰めた感じが「大変な曲だね!」と、梶浦サウンドに慣れたバンドメンバーにさえ言われましたけど。「厳しい!」って(笑)。でも、彼女の高音が美味しいところで高らかに歌っていただき、その下にレギュラーメンバーが濃〜いコーラスをどしっと入れるというコンセプトでやりたかったんですよね。そんなことを考えながら作っていたら転調もたっぷりな長い曲に仕上がったんですが、思惑通り美しく歌っていただけて本当に心地よかったです。

09. それは小さな光のような feat. KEIKO
元々さユりさんに楽曲提供で書かせていただいた曲でした。歌ってくださったさユりさん、そして江口亮さんの編曲が超絶カッコ良く、絶対に自分には作れないようなサウンドでしたので、かえってこれはFictionJunction ver.を作ってみても面白いなと思いセルフカバーさせていただきました。昨年のツアーでも演奏していたのですが、KEIKOさんの情感溢れる声に毎回聞き惚れていました。今回収録出来て嬉しいです。

10. from the edge feat. LiSA
この曲以前にもLiSAさんのことは当然存じ上げていましたし、作品を通しての共演はあったんですが、LiSAさんは確固たる世界をお持ちですし、私の音楽は多分そこには合わない感覚があったので、一つの音楽を一緒に作り上げるようなお仕事をすることはないだろうと思っていました。でも、作品からのご縁で思いがけないチャンスとチャレンジの機会をいただけて嬉しかったです。曲を書いていたときのことはよく覚えていますね。どんな歌をうたっていただこうかとワクワクしていたところで、当時大流行していたQUEENの映画を見に行ったんです。フレディ・マーキュリーが自分の歌のグルーヴでバンドのリズムごと引っ張っていくようなシーンに惚れ惚れして、声に、強いパワーとパンチとグルーヴがなければできないことだな……あ、それってLiSAさんだ! と思ったんです。LiSAさんの歌でリズムを引っ張ってもらい、グルーヴと疾走感を作る、そんなイメージで書きました。

11. moonlight melody
『プリンセス・プリンシパル』の劇中歌で、いただいたご注文は「みんなが酒場で歌うような、作品世界の誰もが知っている名曲」だったので「ハードル高!」と思いながら作った曲でした(笑)。作品からの発注がないとなかなか書かないタイプの曲ですよね。たとえアルバムで好き勝手に書いてもいいと言われても、このミュージカル風味の方向には簡単には行かないと思います。でも、そんな曲が入ることで逆にFictionJunctionらしくなる、アルバムの幅も広がるし、その意外性がいいと思って入れました。これも作品との出会いのお陰ですね。ライブで歌姫たちがニコニコと歌ってくれる感じが、いつ演奏してもとても心地よい曲です。

12. 世界の果て feat. 結城アイラ
昔から気に入っていた曲で、結城アイラさんにYuki Kajiura LIVEに出ていただいたとき、ライブでカバーしていただく予定もあったんです。でも、時間がないなどのセットリストにおける色々な事情でそれが叶わなかったんです。結城アイラさんの明るくてピュアな声に合う曲だと思っていたので、「いつか」と思っていました。だから、ついに歌っていただくことができました、という気持ちでしたね。

13. Parade
タイトル先行で書き始めた曲だったのですが、今、自分たちの音楽がパレードのようだと思っているときに、「Parade」という曲を書くわけですから、書いてみたらまあ……思っていた以上に今の自分の立ち位置とか、こうありたいとか、改めてふと今の自分の足元を見つめて思うこと……のようなものが、入り込んだ歌詞になったなあという実感があります。生きていればそれは楽しいことばかりではないし、もう歩きたくないと思うこともあるし、パレードに加わってくれる人も離れていく人もいる。でも、コロナ禍があったので余計そうなのかもしれないんですけど、ここ数年、身に染みて「朗らかでいたい」と想うことがすごく増えました。私も根が明るいほうではないのでいつもは無理ですけど、そうありたいな、と。「朗らか」という言葉はすごくいいと思うんですね。無理して笑うわけではないけれども決してうつむかず、ふわっと朗らか。私もバンドメンバーたちもいい年なので、若い人たちと一緒に音楽をやることがありますけど、若い人たちは若い人たちの音楽を作っているから教えるようなことなんてないし。ただ、上の世代である私たちが朗らかに音楽をやっていることが伝われば、それが一番の勇気になる気はしました。アルバムの最後に、「まあ、なんだ、お互い色々大変だけどちょっとの間一緒に行かない?」のような曲が入るのはいいかなって。こういった曲はテンポ感が難しいですが、速くしたり遅くしたり、迷った末にこのテンポで。貴方には貴方の人生のテンポがあると思うけれど、この曲を聞いてる間、短い間だけれどちょっと歩みを緩めて一緒に一緒に行こうよ、そんなテンポです。

一人ひとりに「ありがとう」を伝える年に
――ありがとうございました。初回生産限定盤につくBlu-rayには、「Parade」のMVと共に、先ほどお話に挙がった「Yuki Kajiura LIVE vol.#16~Sing a Song Tour~」が収録されます。

梶浦 そうなんです。贅沢でしょう? 本当に贅沢だと思いますよ。ファンクラブの方からもライブを映像作品としてリリース欲しいというリクエストが多かったので、その意味でもすごく嬉しいですね。

――それこそ、『elemental』を冠したツアーの『Yuki Kajiura LIVE vol.#11』以来のリリースになります。

梶浦  何より、ライブは私たちの「パレード」そのものなので。「これがパレードです」という答え合わせとして見ていただけるということは、このアルバムのおまけとしてすごくふさわしいと思います。

――あらためてアルバム全体の話に戻りますが、とてもやわらかな印象を受けるアルバムだと感じました。

梶浦  根本的な問題として、タイアップ曲が少ないので全体的にテンポの速い曲があまりないですよね。それに、最近はテンポの速い曲を多く書いていたので、テンポ疲れしたところはあるかもしれません(笑)。でも、FJなのでテンポの速い曲を無理して入れる必要もないし。むしろやわらかいといいますか、テンポがゆったりとしたアルバムを皆さんがどう聴いてくださるのか、そこは楽しみですね。1曲でも2曲でも「あ、これ好きだな」と思ってもらえたら、もう最高です。

――曲のテンポがゆっくりならば当然かもしれませんが、歌詞もやわらかめだと感じました。

梶浦  それはそうかもしれないですね。私が書いた歌詞は数としては圧倒的にKalafinaが多いんですけど、Kalafinaはスタイルを統一しようとしていたところがあって、曲に合わせて歌詞も攻撃的というか、少し強い言葉を敢えて使っていたものも多かったです。だから、聴く人の心に何か投げかけるような、投げる石の粒が少し大き目な、といったところは意識していました。でも、FictionJunctionに関しては無理に大きな石を投げる必要はないので、そういう言葉選びになっているかもしれないですね。あとは、今の時代のほうが案外、何年か前よりも言葉が痛い時代ではないかもしれません。

――個人的には、「八月のオルガン」はとても澄み切ったタイトルで印象に残りました。

梶浦 あの曲はメロディを先行して作ったとき、ふと思いついた言葉で仮歌を自分で録ったんですけど、歌ってみたらすごくメロディと相性の良い言葉でしたし、絵的に綺麗だと思ったんですね。8月の空にオルガンの音が昇っていく感覚と、LINO LEIAさんに歌っていただく曲の全体的なイメージがマッチすると思ったので、8月の空に昇るオルガンの音というところだけを残し、歌詞を考えていきました。だからストーリーというよりは、その絵のために歌詞を書いた感覚ですね。

――最初に出ましたが、今回のアルバムは期せずしてFictionJunction 30周年記念作品にもなります。梶浦さんとしては「30周年」で意識される部分はありますか?

梶浦 正直、本当に何もないです(笑)。

――ですよね(笑)。

梶浦 先ほどもお話しましたけど、昔を振り返ることがないので。昔の曲を聴かないし、忘れるし。まぁ、いつか仕事を辞めて、縁側で猫と暮らし始めたら感慨深い感じになるのかもしれないですけど、今は明日のことで手一杯ですからとてもとても。なので、30周年に対しても思うところはないんです。でも例えば、『鬼滅の刃』のおかげで賞をいただいたとき、自分では分不相応だと感じたり、作品に恵まれたからであって私が喜ぶのは違うだろうと正直思ったりしていても、ファンの方がすごく喜んで下さっていて……。そこに「いやいや」と自分から否定することはとても失礼だとものすごく反省したんです。みんなが聞いてくれたから今の自分がある訳で、「ファンだ」と言ってくださる方にちゃんと、「俺たちが支えたから」って思ってもらいたいじゃないですか? 実際ファンクラブを立ち上げて、ファンの方に支えてもらっている感覚は強いので、そういったお祝いごとはちゃんと「みんなのお陰だよありがとうイェイッ!」と喜ぶべきだろうと思いました。だから今年は、ファンの皆さんに会いに行き、今までやらなかったサイン会もやって、ファンクラブで歌姫たちとトークして……、といったことをできるだけたくさんやろうと思っています。結局、何で返せるかといったら音楽で返すしかないんですけど、でもそこからもう少しだけ踏み込んで、一人ひとりの方に「ありがとう」の気持ちを伝える機会をなるべく増やしたい。「30周年おめでとう!」の言葉をちゃんと精一杯喜んで受け止めて「30年聞いてくれてありがとう!」と一つひとつ打ち返せる年にしたいなと思っています。

――その一つとして、『Kaji Fes.2023』が日本武道館にて12月8日(金)、9日(土)の二日間で開催されます。

梶浦 正直言いますと武道館は私にとってキャパが大きすぎる箱なんですよ。でも、「30周年だから頑張って武道館でライブ」というのもなんかいいじゃないですか? 40周年のときはもっと落ち着いた感じになるでしょうし、「わぁ、武道館ライブだ♪」ってできるのもこれが最初で最後のチャンスなので。思いっきりはしゃごうと思っています。

――武道館は梶浦さんにとってどのようなイメージの存在ですか?

梶浦  正直、昔はめちゃめちゃ音がひどかったんですよ。比喩ではなく、本当にスネアの音が2発聴こえましたから。音楽を楽しむどころではなかったです。色々な音響技術が進歩し、今では本当にいいホールになりましたけど。ただ、そうは言っても、トップスターにだけ許された場所、ではありましたよね。今より大きなホールも少なかったですし。だから私もバンドメンバーも、「ついに武道館」という世代ではあるんです。私たちの世代ならではの、武道館の大切さみたいなものも感じているので、そこは素直に大喜びをして、二日間に分けて楽しいライブをやりたいと思っています。

――10年ぶり2度目となる『Kaji Fes.』の開催ですから。

梶浦 でも、10年前と根本的な感覚は変わらないですね。今回も「2日で1本」なんですよ。バンドメンバーへの負担を考えて日程を分けただけで。1曲もかぶらないライブにします。

――では、両日参加してもらわないと真価が楽しめませんね。

梶浦 だからファンクラブの方にも「一生に1回のことなので来てね」とは言っています。普段は「来たい人だけが来ればいいよ」というスタンスなんですけど、せっかくの武道館なのでね(笑)。とは言っても「同じ曲をやらない」というだけの独立したライブなので、1日だけでも無論普通に楽しんでいただけますよ。むしろあまりマニアックな選曲をしない「梶浦曲ベスト」がコンセプトのライブなので、はじめましての方にはよりお勧めかもしれません。是非お越しくださいね!

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