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Text Interviews » Y.Kajiura interview on realsound.jp about Fena

This is purely for Archiving purposes, original source is the realsound.jp website


『「海賊王女」オリジナルサウンドトラック』インタビュー

2021.12.08 18:00
梶浦由記、物語を引き立てる劇伴ならではの面白さ ルーツも織り込まれた『海賊王女』サントラ制作を語る
文・取材=もりひでゆき

 10月2日より放送中のアニメ『海賊王女』(TOKYO MXほか)。「18世紀×王女×侍×海賊」というコンセプトの下、海を舞台にした壮大な冒険が描かれていく本作では、ストーリーを彩る劇伴音楽を梶浦由記が担当。そのオリジナルサウンドトラックが12月8日に発売となった。オープニングテーマであるJUNNA「海と真珠」も書き下ろしている梶浦だが(※1)、ユニークなテーマ設定で進んでいく『海賊王女』という物語にどのようなインスパイアを受け、どのように劇伴を制作していったのだろうか。そこには、バンドを出自とする梶浦なりの制作スタンスや、あくまで“ストーリーが主役”であるアニメに対する劇伴の在り方など、様々な視座が垣間見えるインタビューとなった。(編集部)

個性のぶつかり合いが生まれた時代の物語
ーー10月よりスタートしたアニメ『海賊王女』ですが、放送をご覧になっていかがですか。

梶浦由記(以下、梶浦):思っていた以上にテンポがよくて、脚本だけ読ませていただいていたときよりも、ゴブリンの若者たちの会話が軽妙で面白いですね。わりとクールだけど冷めすぎず、仲の良さもちゃんと表現されているけど、戦いとなれば結構怖い。その感じをテンポよく見せていくのはさすがだなと思いました。あとはとにかく画が綺麗。音楽を作るにあたって背景画を見せてもらっていて、その段階ですごく美しいなとは思っていたんです。でも、実際に放送ではその画がどんどん動いてくわけですから、やっぱり感動しちゃいますよね。ここから先、どこに向かって物語が進んでいくんだろうという期待感、ワクワク感もハンパないですし、「次はどんな街に辿り着くんだろう?」って、一緒に冒険している気持ちになります。

ーー個人的には食事のシーンが印象的で。めちゃくちゃ美味しそうに描かれていますよね。

梶浦:あははは。食べ物の描写は結構大事ですよね。放送は深夜なので、“飯テロ”感がすごい。「もうやめてー!」って思いながら楽しく観ていますけど(笑)。

ーー梶浦さん的に推しているキャラクターはいますか?

梶浦:基本的に推しはあまり作らないようにしていますけど、『海賊王女』に関してはやっぱりフェナ(・ハウトマン)と雪丸をどうしたって応援したくなりますよね。2人には頑張って欲しいなと。

ーー今回リリースされる『海賊王女』のオリジナルサウンドトラックには、アニメのオープニングテーマ「海と真珠」とエンディングテーマ「サイハテ」のTV EDITに加え、劇中で使われているBGMが40曲収録されています。劇伴を作るにあたっては、どんなサウンドを目指しましたか?

梶浦:まず、海の冒険を描いた作品の劇伴を作るのが私にとっては初めてだったので、お話をいただいたときは本当に嬉しくて。だって『海賊王女』というタイトルだけで相当ワクワクしてくるじゃないですか(笑)。ただ、最初にタイトルとイメージイラストをいただいたときは、ものすごく強い女海賊がガンガン戦いながらお宝を目指すお話だと勝手に想像していたところがあって。それで、いざ詳しい資料をいただいたところ、案外そういうお話ではなく、主人公のフェナはすごくかわいいヒロインだったっていう。

ーーそこで音楽に関してもイメージの方向性が変わったところもあったんですか?

梶浦:いえ、想像とは違った内容だったけれど、物語の中にはバトルもありますし、そこまで方向性を変えた感じではなかったです。脚本を読ませてもらった段階で、大事なのは海を渡っていく冒険へのワクワクする気持ちだと思ったので、私はそれを音楽でもちゃんと表現したいなと。そういった気持ちで作り始めた感じでしたね。

ーー中澤一登監督から音楽に対するリクエストもあるわけですよね?

梶浦:そうですね。今回は監督が音響監督も兼ねていらっしゃって、最初にいただいた音楽メニューに音のイメージを具体的に書いてくださっていたんです。なので私としてはイメージを共有しやすかったし、すごくやりやすかったです。事前に資料や脚本には全部目を通しますし、その上でわからないことがあれば、打ち合わせの段階で全部質問することもできるので、音楽を作る段階になって悩むことはほぼなかったですね。

ーー物語の舞台は18世紀であり、海賊や王女、侍など様々な要素が盛り込まれている作品だけに、サウンドのアプローチは大変だったのではないかなと想像したのですが。

梶浦:そのごちゃごちゃした感じって、すごくリアルだとも思うんですよ。簡単に海を渡ることのできない時代って、きっとどの文化も孤立しているじゃないですか。だからこそ、それぞれ個性豊かになるものだと思うし。いざ船の旅が活発になってくると、いろんな文化がいろんなところで出会い、個性のぶつかり合いみたいなものが生まれる。『海賊王女』で描かれているのはそういうことが起きている時代だと思うんです。だから音楽に関しても制限を感じるというよりは、単純に面白いものとして投影できた感じですね。

ーーいろんな文化が混ざり合う世界だからこそ、いろんな音楽があってもいいと。

梶浦:はい。ただ、あまりにもいろんなことをやってしまうと物語の統一感がなくなってしまうので、異国感みたいな部分を意識してすべてのBGMを作っていったところはありました。そこは監督も最初に話していたところで。明らかに異国を感じるんだけど、それが例えば“イギリス”とか“和”とか、そういう場所に限定されないほうがいいんじゃないかっていう。そこで私はパッと「異邦人」(1979年にリリースされた久保田早紀の楽曲)を思い出して、「あ、こういう感じかな」とイメージが固まったんですよね。

ーーなるほど。確かに「異邦人」はイントロからして異国感は漂っていますけど、具体的な場所は浮かんでこないですもんね。

梶浦:そうそう。絶対に異国なんだけど、それがどこかと聞かれるとわからない、みたいな。「飛んでイスタンブール」(1978年にリリースされた庄野真代の楽曲)という曲もありましたけど、あれもトルコの曲かと言われたら違う。でも異国は感じるわけじゃないですか。なので今回は異国への憧れみたいなものを感じる旋律でいいんじゃないかと。

ーーその方向性って梶浦さんが最も得意なところじゃないですか?

梶浦:そうですね(笑)。だから、あまりいろいろ考えずに作ることができたというか。知らない場所に対して心が高鳴る感じを増長するような、少し後押しできるような音楽になればいいかなっていう感覚でしたね。

テンポを決める上で大事にしているのは“セリフ回し”
ーーストリングスをフィーチャーした曲が多い印象もありますよね。

梶浦:今回はやっぱり弦かなっていう気持ちが自分の中にあったんです。海の上をとうとうと流れていく物語に合う楽器は弦とパーカッションかなと思ったので。あと、異国情緒という部分ではアコーディオンを使った曲も結構多いかな。そういった楽器は、音の響きとして余計な耳を奪わないんですよ。物語に自然と溶け込みやすいので、BGMとしてはすごく使いやすい。もちろん物語の場面によってはBGMで変化をつけた方がいいときもあるんですけど、基本的には耳馴染みのいい音を使うようにはしています。

ーーストリングの使い方に関して、梶浦さんなりの流儀ってあります?

梶浦:私はすぐ歌わせたくなっちゃうので(笑)、ほとんど刻ませない使い方をしますね。最近のサントラは弦の刻みが結構多いんですけど、私の場合はほとんど歌っているという。どっちがいい悪いではないですけど、私の弦はメロディを弾いていることが多いので、登場人物たちの気持ちが盛り上がる場面には合わせやすいのかなっていう気がします。

ーーしかも、いわゆるオーケストラ的な弦の使い方でもないですよね。

梶浦:そうですね。私はオーケストラの曲を作るつもりは一切ないので。よく弦を使うのでオーケストラっぽいと言われることも多いですけど、まったくそうではないんです。私の曲は基本的にリズムオリエンテッドなので、まずリズムがあって、その上で弦が鳴っているイメージ。だから、いざ自分の曲をオーケストラアレンジにしようとすると非常に困ることになるんですけど(笑)。

ーーそういったアプローチになったのは何か理由があるのでしょうか。

梶浦:単純にそういうものが好きなんだと思いますよ。私のキャリアはバンドから始まっているので、リズムが持つグルーヴが肌に合うというか。曲の土台になるグルーヴを何で作るかってなったとき、オーケストラを学んできた方はブラスやパーカッションを使うと思うんですけど、私はバンド育ちだからまずリズムを作る。やっぱりバンド的な感覚なんですよね。そこは人それぞれ、得意分野と方法論の違いということだと思います。

ーーじゃあ劇伴でもビートから作り始めることもあるんですか?

梶浦:そういうこともありますよ。例えばバトルシーンの曲だと、リズムやテンポ感から決めていくことが多いです。もちろんメロディから作ることもありますけどね。

ーー劇伴のテンポについては監督との打ち合わせの段階で指定されるものなのでしょうか。

梶浦:ほとんど指定はされないです。必要であれば事前に「全体的に速くはないですよね?」くらいの漠然とした打ち合わせはしますけど、基本的には自分で考えることが多いですね。

ーー素人考えですけど、流れていく映像にマッチさせるという意味では、曲のテンポって非常に重要な気がするんですよね。どうやってそこを決めるんですか?

梶浦:私が大事にしているのはセリフ回しなんですよ。セリフが早口なときは音楽も若干速くなるし、しゃべっている人の年代が高ければゆっくり、逆に若ければ速いとか、そういう部分で決めていくことが多いですね。大人だけが出てくるバトルシーンや、策略系のバトルシーンであれば、テンポをガッと落とすとか。そういう感じで。

ーー脚本を含めた資料のみでそこを判断するということですか。

梶浦:そうですね。事前に用意していただける資料・情報は限られているので、できる限りのイメージをそこから取らないといけないですから。私は音楽を作る前に、脚本を声に出して読むんです。そうすると、セリフの量や掛け合いなどで、そのシーンのテンポ感がだんだん見えてくるんですよ。ただ、そのセリフをどんな表情で言っているのかとか、そのセリフの裏にある感情みたいな部分は脚本からは読み取れないこともあるので、そこは私なりの想定になってしまうんですけどね。今回は音楽メニューに書かれていた監督の説明がすごく細かかったので、そこまで想像力を駆使しないといけない部分は少なかったです。

「劇伴はパーツ職人に徹する方が面白い」
ーーアニメのオープニングテーマである「海と真珠」のメロディがいくつかの劇伴でも効果的に使われていますよね。そこにはメインテーマ的なイメージがあったのでしょうか?

梶浦:そうですね。基本的にフェナのために書いた曲は「海と真珠」のメロディをアレンジしたものになっていて。それが本作でのメインテーマという感覚ですね。フェナのシーンになるとサブリミナル的に「海と真珠」のメロディが流れてくることで、それがフェナの曲であるという認識に結びついてくれたらいいなという狙いがあったので。そういうことができたのも、オープニングテーマまで作らせてもらえたからこそだと思います。

JUNNA 「海と真珠」Music Video (short ver.)
ーーまた、Joelleさんをボーカルに迎えた曲が4編収録されているのも印象的で。

梶浦:「vise versa」という曲があるんですけど、物語の中の人たちにも認識されている歌なんですよ。挿入歌というよりも、もうちょっと強い意味合いのある曲。要はBGMではなく、ストーリーの中に出てくる曲ということなので、誰に歌ってもらうかが一番重要だったんですよね。いろいろ考えた結果、Joelleさんの声がすごく合っているなと思ってお願いしました。そこからの流れで、「fight to the finish」「ruins」「what she was here for」も歌っていただいた感じです。この3曲は完全にBGMとしての役割ですけど、物語の中で効果的に使われていると思いますね。

ーー「vise versa」の歌詞は造語、いわゆる“梶浦語”ですよね。

梶浦:この曲は監督が書いた日本語の歌詞が元々あって、それに合わせて私がメロディをつけていったんでけど、劇中で流すのであれば造語のほうがいいんじゃないかということになったんですよね。

ーーJoelleさんの抜擢はそういった部分でも納得ですよね。これまでも梶浦さんの楽曲をたくさん歌われてきた方なので。

梶浦:そうですね。造語の曲を歌っていただく場合、海外の言葉で歌ったことがない方にはちょっと難しい部分がありますし。造語をローマ字読みで歌ってしまうと雰囲気が出ないというか。「ちょっとイタリア語っぽく歌ってみましょうか」「ラテン語っぽく歌ってみましょうか」みたいなディレクションをすることもあるので、外国語の発音を知っている方だとより綺麗に歌ってもらえるんですよね。そういった意味では、英語を自在に操れるJoelleさんは文句ナシ。もうお互いに慣れたものなので、レコーディングでは楽しみながら歌ってくださって。私としては「お見事です!」といった感じでしたね。

ーー「vise versa」の日本語バージョンも気になるところですけどね。

梶浦:日本語バージョンは「vise versa」のメロディに乗せると日本語でしっかり歌うことはできますので、挑戦してもらえると面白いかもしれないです(笑)。

ーー今回リリースされるサントラを聴かせていただくと、そのすべてに楽曲としての強いパワーを感じます。でも、アニメの中だと物語をより鮮やかにするため、一歩後ろに下がった一つの要素になっていて。同じ曲なのに不思議ですよね。

梶浦:私は物語をよりいい形で届けるためのパーツ職人なんですよ。劇伴を作っている以上は、そうあるべきかなと。劇伴としての役割を果たしてないと、結局はその音楽自体がいいものとして聴こえないじゃないですか。画と音楽が噛み合っていない作品は、どうしたって魅力的には感じられないので。だからサントラを聴いて楽しんでもらうことはもちろん大きな喜びではありますけど、やっぱり映像と合ってるということが、自分で望んでいる評価なのかなとは思います。

ーー梶浦さんはFictionJunctionをはじめ、ご自身が前に出る活動もされています。だからこそ、一方では映像に寄り添う“パーツ職人”という考えの元で、劇伴作家という場所を楽しめているのかもしれないですよね。

梶浦:どうなんでしょうね。確かに私は元々バンドをやっていたので、劇伴に対しての気持ちを持てるようになるまではちょっと時間がかかったんですよ。BGMを作るようになった当初は正直、自分が主役でない仕事をすることに対して戸惑っていたというか。どう向き合っていいのか、どう取り組んでいいのかがわからなかったんですよね。

ーーそういう感覚になるのもわかる気がします。でも、そこから抜け出したわけですよね。

梶浦:そうですね。いつからか、パーツ職人に徹する方が面白いんだなっていうことに気づいたんです。言い方がちょっと難しいんですけど、結局は関わる作品が魅力的になることがみんなにとって一番幸せなことなんだなって思うようになったというか。誰が主役で、誰が主役じゃないみたいなことは、いつの間にかどうでもよくなったっていうことですね(笑)。そう思えるようになったからこそ、自分が主役になれる活動もより楽しくなったところがあると思いますし。だって、ライブで皆さんから拍手をいただけるのって、ものすごく気持ちいいことですから。その場で私が演奏した曲に対して、お金を払って観に来てくれた人たちが「わー、素敵!」と言ってくれるんですよ。それってすごいじゃないですか(笑)。こんな幸せなことがこの世にあっていいのかって思える場所がある。それも自分にとってすごく大きなことですからね。

ーー『海賊王女』の物語はさらにクライマックスへ向かっていきますが、楽しみにしているファンに向けて、最後に梶浦さんから一言お願いします。

梶浦:前に前に進み続けるロマンと冒険、そして憧れの物語が、ここからどこに行きつくのか。どんなところが終着点なのかをひたすら楽しみにして欲しいですね。音楽も含め、この美しい世界を最後まで一緒に旅していただければと願うのみです。

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