This interview with Yuki Kajiura was originally posted on Animate TV. English translation is here.
TVアニメ『Pandora Hearts』の音楽を手がけるのは梶浦由記さん! FictionJucntion名義でOP主題歌「Parallel Hearts」を4月29日にリリース!
4月からTBS系で始まったアニメ新番組『PandoraHearts』。劇中の音楽を担当するのは、メロディメーカーとしておなじみの梶浦由記さん。その梶浦さんだがソロプロジェクトのFictionJunction名義でOP主題歌も担当している。その主題歌「Parallel Hearts」は梶浦さんのライブに参加しているKAORIさん、KEIKOさん、WAKANAさん、YURIKO KAIDAさんの4人のボーカリストを起用。切なく激しいメロディと、何重にも張り巡らされた厚くて美しいコーラスワークの融合が素晴らしい楽曲に仕上がった。また演奏もライブメンバーが行っており、ライブ感のあるサウンドにもなった。
カップリング曲「ひとみのちから」は、FictionJunction YUUKAとして数多く梶浦さんの楽曲を歌ってきたYUUKAさんのボーカル曲。南青山少女歌劇団時代に1度だけ歌ったという幻の名曲のセルフカバーとなっている。YUUKAさんの歌と、ほとんどが梶浦さんのピアノによるバックトラックというシンプルな構成で、“FJY”とはまったく違ったタイプの、味わいのあるミディアムバラード曲になっている。誰も共感できるセンチメンタルな恋愛観が描かれたリリックも胸を打つ。
「Parallel Hearts」のリリースを経た7月には、初の東名阪のライブツアーも敢行。8月には『アニメロサマーライブ2009』への出演も決定。ますますアクティブに加速する梶浦さんの2009年にはサプライズが尽きない。が、他にも様々な予定があるとのこと。このインタビューから梶浦さんの09年の全貌が垣間見られるかも!?
●これからはFictionJunctionで名義を統一します(!?)
――『Pandora Hearts』の原作を読まれた感想は?
梶浦さん:原作を読む前にイラストを見て、かわいいなと思いました。タイトルもRPGっぽくて、冒険もので、明るく楽しい世界なのかなと思ってました。でもプロデューサーの方から原作をいただいた時、「梶浦さんっぽい作品ですよ」と言われたので、何かあるなって。
読み始めたら絵の印象とは違って、メインキャラのオズとアリスは明るいし、少年少女らしいけど、後ろの世界はすごくディープで、巻を読み進めるごとにディープさが増して、時間も空間もどんどん広がっていき、奥の深い作品だなと思いました。
――ゴシック・アクション・ミステリーということで壮大なスケール感と謎が渦巻く作品なんでしょうね
梶浦さん:まさにゴシック、アクション、ミステリーだなと(笑)。一度ご覧ください。引き込まれてしまう魅力を持っていると思います。
――梶浦さんは作品中の音楽を担当されていますが、どんなイメージで曲を作られているんですか?
梶浦さん:監督からは「キャラクターならキャラクター、場所なら場所の音楽を、それぞれ個性あるものにしたい」というお話をうかがって。劇伴なので世界観を表す曲、神秘的な雰囲気の曲が多いですね。
――音楽のほか、OP主題歌「Parallel Hearts」も担当されていますが、今回は名義がFictionJunctionのみなんですね
梶浦さん:“FictionJunction○○”の○○の部分は、今後取ってしまおうと思っています。ボーカリストが変わる度にアーティスト名義が変わると、いろいろと大変で面倒だし、という単純な理由なんですけど(笑)。しかも、今回のようにボーカリストが4人いる場合、とても長い名前になってしまうので……(笑)。ボーカリストが変わっても、基本的に自分が主体でやっているので、これから全部“FictionJunction”にしちゃおうかなと。
FictionJunction YUUKAの場合は、彼女とガッツリ組んでアルバムやライブなどをしていたので、フィーチャリングするのがいいかなと思いましたが、今後も色々なボーカリストと組んでいく可能性もありますし。
――アニメの公式ブログには昨年12月に候補曲が届いたという書き込みがあってイメージ通りの曲と絶賛されていました
梶浦さん:まず最初に何曲か作ったんですけど、プロデューサーから「これで行こう」と言っていただいて。採用された曲は自分でもイチ押しの曲でした。まだレコーディングなどはしていなかったんですが、曲が既に決まっていたので、昨年末のライブで皆さんに報告した時は気分的には楽でした(笑)。
●世界観はダークでも、そのなかの前向きな気持ちを歌にしました
――どんなイメージで作られたですか?
梶浦さん:この作品には、すごく深くて、暗い闇のような部分から、オズの成長を描く物語だったりと、いろいろな世界観があります。OP曲なので、深くてダークな闇の部分ではなく、その中で成長していくオズの前向きな気持ちにフォーカスして書いた曲です。
――今回、ボーカリストにKAORIさん、KEIKOさん、WAKANAさん、YURIKO KAIDAさんの4人を起用されていますが、どのような経緯で決めたんですか?
梶浦さん:ライブなんですよね。この4人とずっとライブをやってきて、その時間がとても心地よくて、後ろで4人の姿を見て「カッコイイな」と思ってました。そんなカッコよさを『Pandora Hearts』のOPにも生かしたいという気持ちが芽生えました。4人の歌姫がハーモニーを奏でながら歌い上げていく感じで、曲調的にもピッタリ合うかなと。
――演奏もストリングスが入っていますが、すごくシンプルな演奏ですね
梶浦さん: 先日、FictionJunctionの楽曲をまとめた1stアルバム『Everlasting Songs』を出したんですが、昔の曲を聴いた時、「あの頃はもっとシンプルなこと、やってたな」と思ったこともありますし、このメロディに合うアレンジを考えてみると、あまりこねくり回さず、メロディに合う一番シンプルな形にしてもいいのかなと思って。
バイオリンのイントロも過去に何度かやっていますが、無理やり違うものをもってくるのではなく、「ただ、やりたいようにやってみよう」と、思うままにバンドアレンジして、思うままみんなに歌ってもらいました。シンプルといいながらボーカルやコーラスは結構、入り組んでいるんですけど(笑)。
――シンプルなため、4人のボーカルもより引き立っているような。コーラスパートまで気になります
梶浦さん:普段のFictionJunctionの曲は、歌い手の見せ場とかあまり考えていなくて、私が美しいと思うメロディ、美しいと思う曲を書いて、それを曲に合ったボーリストに歌ってもらう形でした。今回は4人で歌ってもらうと決めていたので、それぞれの見せ場を作り、ある意味では4 人を順番に歌わせようと、非常に作為的なコーラスパートを作りました。曲ができてから、一人ひとりの一番合う音の高さやラインを考えて割り振り、後半の入り組んだコーラスパートを作ったんです。
メインパートはWAKANAとKAORIで、KEIKOとYURIKO KAIDAがコーラスをやってくれていますが、FictionJunctionではコーラスパートもすごく重要で、上のハモと下のハモがいないと曲にならなかったりします。2番の始めや後半のソロパートは聴きどころのひとつかなと思います。
――曲名の「Parallel Hearts」にはどんな意味があるんですか?
梶浦さん:はじめに歌詞を書いている時、タイトル部分に『PandoraHearts』と書いてあったんですが、 “Hearts”という言葉が頭から離れなくなって。元々、ハートの距離がテーマになるかなと思っていました。オズの心とアリスの心だったり、他のキャラとの心の距離だったり。あと“Pandora”じゃない言葉を考えたら、平行線でなかなか近づけない心かなと思って、「Parallel Hearts」にしました。「アニメに似たタイトルになってごめんなさい」という感じなんですけど(笑)。
――“Parallel”というところに深さを感じました。常に隣りにいるようで、なかなか近づけない、みたいな
梶浦さん:平行線って2次元的に見ると平行だけど、もし立体的に横から見たとしたら重なりますよね。ある意味、距離も見方によって全然変わるし、自分ではすごく離れていると思ってもそうじゃないのかもしれないし。
●PVにはこれまでないほどに登場しています!
――詞を書く上で考えたことはありますか?
梶浦さん:もちろん作品の世界観やキャラに沿った内容を考えましたが、なるべく難しい言葉を使うのはやめて、伝わりやすいシンプルな歌詞にしよう、飾らずに書きたいものを書こうと思いました。基本的には曲を聴いてくださった方、詞を読んでくださった方が感じたことが真実だと思っています。
――レコーディングはどのように進んでいったんでしょうか?
梶浦さん:非常に順調でしたね。私も何のためらいもなくアレンジしたし、歌い手さん達も迷うような曲じゃないので、思い切りやってもらうだけでした。実はバンドのテンポはすごく速いんですが、歌は大きなリズムになっているので、そこは意識してもらうように話しました。ほとんど悩むことがない、とらえやすい曲だったので割と短い時間で終わりました。
――聴いていてすごくライブ感があったのですが、ライブと同じメンバーの方が演奏されているんですか?
梶浦さん:今回もライブで演奏してくれているメンバーにお願いしました。次のライブも意識してて、レコーディング中から「早くライブでやりたいね」と言っていたくらいです。
――PVも撮影されていますが、ロケ場所は不思議な空間ですね。
梶浦さん:戦時中に炊き出しをしていた場所で、今では映っているレンガの壁だけが残っていて。コの字型というのも撮影に最適でした。当日は寒かったですが天気が良くてよかったです。
――FictionJunction YUUKA(以下FJY)のPVといえば幻想的なイメージもさることながら、カット数の多さも特徴ですね。今回もカット数は多いんですか?
梶浦さん:そうですね。今回、歌い手さんが多いので、時間もかかりました。
――FJYのPVでは梶浦さんが出演されるシーンが、曲間の少しの間だったり、あるいは出ないままのこともありましたが、今回梶浦さんご自身の出番は?
梶浦さん:私が出たかった割合よりは多く出てます(笑)。FJYでは最初の頃、わざとじゃないかと言われるくらいピアノのない曲ばかり書いていたので、PVではやることがなくて。今回はピアノがあったのでたくさん出られました。
――ライブと同じように激しいプレーのシーンが見られるわけですね
梶浦さん:ライブよりは派手に弾いてます。
――改めてこの曲の聴きどころをお話しいただけますか?
梶浦さん:曲の聴きどころはやはり、4人の歌姫がのびのびと歌ってくれてるところで、アレンジがシンプルな分、歌が聴きやすくなっているので、歌姫達の魅力を味わってほしいです。あと『PandoraHearts』という作品のために書いた曲なので、作品の行方と共に楽しんでください。
●南少時代の曲が復活!YUUKA「素の自分になりそうで怖いです」
――カップリング曲の「ひとみのちから」は対照的にしっとりしたミディアムバラードですね
梶浦さん:実はすごく古い曲なんです。YUUKAと知り合ったのは、彼女と私が南青山少女歌劇団でお仕事していた時代で、そこではミュージカルやお芝居をするほかにライブ活動もやっていて、ライブのために作った曲でしたが、1回だけ歌ったままになっていました。でもずっとYUUKAに歌ってもらいたいと思っていて、FJYの時に歌ってもらおうかなと考えましたが、FJYの世界観と曲の素直さが合わない気がして、一旦断念したんです。
今回の「Parallel Hearts」が素直な曲になったので、対照的な曲調だけど素直同士でいいんじゃないかなと。長年の念願が叶いました。
――YUUKAさんのボーカルとピアノの音が心にしみ込んでくるような……
梶浦さん:YUUKAは演技力がある歌い手なので、ピアノと歌だけで存分に聴いてもらいたくて。シンプルなアレンジで、最初はずっとピアノで、「ここらへんでバンドを入れようか」という気持ちをぐっと抑えつつ、最後のほうで少し音が入るという(笑)。
――今まで聴いたFJYの曲の中で一番、日常的でリアルですね
梶浦さん:YUUKAにも同じことを言われました。「かえって怖い」って(笑)。FJYの曲はすごく世界に入り込まないと歌えない分、自分じゃないところで歌えるけど、「この曲は素になってしまうので難しいです。どんな顔をしていいのかわかりません」と言ってました。この曲は彼女が10代の頃に書いたので、当時は凝った曲よりも素直な曲を歌わせたいと思っていたので、そういう内容になったんです。久しぶりにこの曲の詞をじっくり見た時、「私にもこんな素直な詞が書けるんだな」と思いました(笑)。
――恋をしている人、特に恋が終わったばかりの人には胸に響く歌詞かなと
梶浦さん:気持ちを伝えなかったことを後悔するのは誰にもあると思うんです。「何となくわかってると思ってた」みたいな。初めての恋や2度目の恋はそういうワナにおちいりがちですよね。「こんなことさえ、お互い、わかっていなかったんだ」という反省を踏まえて、次の恋ではより周到になっていくわけです(笑)。
――事前の情報なしに曲を聴いた時にYUUKAさんが歌っていると気付かないような違った歌い方に思えて驚きました。レコーディングでは何かディレクションがあったんですか?
梶浦さん:あまりしていません。「そこの言葉をしっかり歌ってみて」とか「ここの部分は強調して」といった、細かいところについて言うことはありますが、YUUKAは自分の中で曲を消化して歌うタイプなので、詞の内容についての説明もしません。「説明してほしいです」みたいに言われることがよくありますが、「自分でやってみようね!」って(笑)。
基本的には「私が書いたそのままを理解しなくていい」とみんなには言ってます。詞を読んだ時に自分なりの景色が見えればそれでいいと。詞を書いた時の私の頭の中の風景を、100%そのまま伝えることは不可能ですから。言葉とメロディから浮かんできたイメージを、そのまま歌ってもらえればいいと思っています。
――今回のシングルでは歌が2曲なのにボーカリスト5人が歌っているというのはものすごく豪華で、FictionJunctionならではですね。
梶浦さん:確かに贅沢なことしてますよね。シンプルなんて言っちゃいけないのかもしれません。これだけ素晴らしい歌い手さんが集まってくれることが、私の原動力になっていて、「みんな、すごいな」と思います。うまい歌い手さんが歌っているのを聴くだけで幸せになれるので、レコーディングも楽しくて。好きな作品の曲を作らせていただいて、好きな歌い手さんやバンドと一緒にお仕事できる、私にとって幸せな1枚になりました。
●ツアーはエネルギーをもらえるので、やめられません!
――「Parallel Hearts」はライブを意識された曲とのことですが、来月には早速、生で聴いていただく機会があります
梶浦さん:5月9日にある『Pandora Hearts』のイベントで初お披露目します。7月には『FictionJunction Yuki Kajura LIVE Vol.♯4~Everlasting Songs Tour 2009~』と題して東名阪のライブツアーも行うのでそちらでも歌う予定です。
――初の東名阪ツアーですが、どんな内容になりそうですか?
梶浦さん:2部構成になっていて、1部がFictionJunction YUUKA、2部が「Parallel Hearts」を歌ってくれたKAORI、KEIKO、WAKANA、YURIKO KAIDAを迎えてFictionJunctionでお送りします。『Everlasting Songs』リリース後ということもあり、アルバムを中心にしつつお届けするつもりです。まだ選曲中ですが、日本語の曲中心で、今までのライブで一番、日本語率が高くなると思います(笑)。私のライブを見たこともない方も楽しみやすいステージになると思うので、ぜひ遊びに来てください。
――楽曲制作に加え、5月の『Pandora Hearts』のイベントに、5月16日のKalafinaのライブ、7月にライブツアー、8月には『アニメロサマーライブ』出演、そして渡米してのイベント出演など多忙を極めますね
梶浦さん:ライブは仕事っていう感じがしないんですよね。曲を作っている時は完全に仕事モードですけど、ライブは遊びの延長みたいな。だから大変だと思ったことは少ないです。まず自分が楽しまないと、皆さんにも楽しんでいただくことができないと思うので。
イベントもそうですが、聴いてくださるファンの方と直接、お会いできるとまず曲やパフォーマンスに対してリアクションがダイレクトで実感や充実感が大きいのがいいですね。毎回、エネルギーをいただけるし、何よりも楽しいのでやめられませんね。
●ファンクラブの活動も楽しみたいです。09年にも期待してください!
――他に今後のご予定をお聞かせください
梶浦さん:『Pandora Hearts』のサウンドトラックの制作もやっていますし、4月からNHKで始まった『歴史秘話ヒストリア』の音楽を担当しています。あとファンクラブのイベントも近いうちにやります。普段のライブとは違ったゆるい感じのライブにしたいなと。この春からスタートしたファンクラブ活動も精一杯、みんなと楽しみたいと思っていますので興味を持ってくださったらまずは私の公式HPを見てください。
――最後に皆さんへメッセージをお願いします
梶浦さん:「Parallel Hearts」は『Pandora Hearts』についていろいろ考えながら作った曲です。主人公のオズ達をはじめ、登場人物達が明るい未来を迎えてほしいという願いも込めました。作品と同様に楽しんでください。またFicitionJunctionとしても4人の歌姫達が頑張ってくれて、素敵な歌声を聴かせてくれますのでぜひ聴いてほしいですね。今後、イベントやライブの予定もあって、7月にはこのCDに参加してくれたすべての歌姫が参加してくれるライブツアー、8月の『アニメロサマーライブ 2009』と合わせてたくさんの方とお会いできるのが楽しみです。これからも素敵な曲を聴いていただけるように頑張りますので引き続き応援よろしくお願いします。